さて、今日のうたコラムではそんな最新作をリリースした“佐藤千亜妃”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は最終回。綴っていただいたのは、アルバムのラストを飾る新曲「橙ラプソディー」にまつわるお話です。この曲を聴いた同級生から届いた、とあるメッセージとは。みなさんは“帰り道のワンシーン”というと、どんな光景が頭に浮かびますか…?
~歌詞エッセイ最終回:「橙ラプソディー」~
今回は「橙ラプソディー」という曲について書きたいと思う。アルバム『KOE』を締め括る楽曲である。
この曲は、学生時代に実際に経験したシチュエーションと、現在とがオーバーラップする感覚で書き下ろした。現在進行形のように語りながらも、その実は過去の情景を懐古しているというような内容になっている。
この曲の弾き語りをひょんなきっかけからSNSにアップすると、瞬く間に多くのリアクションをもらった。そんな中で、面白いことが起こった。小学校・中学校を一緒に過ごした同級生からメッセージが届いたのだ。未だに仲が良く、地元に帰った際には会ったり、お互いのSNSをチェックしていたり、普段からちょくちょく連絡をとりあっている友達だ。
急になんだろう、と思いメッセージを開くと、そこにはこんなことが書かれていた。「橙ラプソディー凄く良い曲だね!なんか中学校の時の帰り道を思い出して切なくなっちゃった」。このメッセージを読んで、なるほど、そっか、と、腑に落ちる自分がいた。不思議な感情だった。
「橙ラプソディー」は帰り道のワンシーンを描いた歌詞で、それを受け取る人によって想像する帰り道のイメージは十人十色だと思う。ところが、連絡をくれた友達に至っては、きっと、私とほぼ同じ帰り道の情景をイメージしていたのではないかと思う。同じ学校に通い、同じくらいの時間に帰っていた。勿論、帰る家の方角は違うけれど、大体放課後に友達とだべる場所は決まっていたし、同じ景色の記憶を沢山共有している仲間だった。
まさか、この曲が、こんな風に届くことは想定していなかった。似た情景を記憶している友に届くとは。そして私たちは大人になり、あの頃の恋とはサヨナラしているのだ。もう戻れない時間のことを思い、ただただ懐かしく、切なく思う気持ちがシンクロしていた。なんだかちょっと不思議で、面白い体験だった。
ただやっぱり、見えていた色や、匂いは、少しだけ違うのかもしれないとも思う。夕暮れ時の帰り道の記憶は、みんな同じような懐かしさに襲われつつも、それぞれが思い浮かべる景色はちょっとずつ違うんだろう。だからこそ大切で、むず痒くて、二度と戻らないことはわかっていても、どうしても愛しく思ってしまうのだろう。
橙色の帰り道。あの日の、それぞれの帰り道、その景色を思い出しながら聴いて欲しい。「橙ラプソディー」はそんな一曲である。
<佐藤千亜妃>
◆紹介曲「橙ラプソディー」
作詞:佐藤千亜妃
作曲:佐藤千亜妃
◆Newアルバム『KOE』
2021年9月15日発売
通常盤 UPCH-20592 ¥3,300(tax in)
初回限定盤 UPCH-29408 ¥6,380(tax in)
<収録曲>
1. Who Am I
2. rainy rainy rainy blues
3. 声
4. カタワレ
5. 甘い煙
6. 転がるビー玉
7. リナリア
8. 棺
9. Love her...
10. 愛が通り過ぎて
11. ランドマーク
12. 橙ラプソディー