竹内アンナ
ALRIGHT
2026年8月12日に“竹内アンナ”が新作『MIXTAPE』をリリースしました。今作には、未発表曲3曲、2025年にリリースされた楽曲3曲、本作のために新たに書き下ろされた2曲の計8曲が収録されております。タイトルの『MIXTAPE』には、時代を超えた“アーカイブ”の意味が込められており、これまでの軌跡を辿るファンはもちろん、初めて彼女の音楽に触れるリスナーも幅広く楽しめる1作です。
さて、今日のうたではそんな“竹内アンナ”による歌詞エッセイを3週連続でお届けします。今回が最終回です。自転車で坂を下るときだけは、なんでもうまくいくような気がしたあの頃。“大人になること”を考えた先で、ふと思うことは…。
京都の夏は、いつだって心にまとわりつく。あの湿気のように、じっとりと、なかなか離れてくれない。
学生時代、通学には自転車を使っていた。行きは地獄のような上り坂。その代わり、帰り道は天国のように快適な下り坂だった。
とりわけ好きだったのは夏の終わり、日が少し沈みかけた頃、一人で自転車に乗る帰り道だった。
坂を下り、風を切っている瞬間だけは、湿気も、将来への漠然とした不安も、昨日送らなきゃよかったと後悔しているメールのことも、全部どうでもよくなった。
あと、通販の買い物かごに鎮座したままの買うほどでもないけれど欲しいもののこと、好きな歌なのに歌詞カードには載っていなくてなんと言っているのか分からないあの一節のこと、ほかにもあれやこれや。
我ながらいろいろと考えすぎではある。そのツッコミも一緒に、風の中へ流させていただきましょう。
不安を忘れられるだけではなかった。むしろ、理由もなく自信が湧き上がってきた。この下り坂を乗りこなしている間だけは、なぜかなんでもうまくいくような気がした。不思議だった。
大人になるって、どういうことだろう。
今はうまくできないことも、大人になれば上手にやりくりできるようになるのだろうか。愛想笑いも、世渡りも、きっとうまくなる。思ってもいないお世辞だって言えるようになるし、失礼で余計な言葉を向けられても、黙ってやり過ごせるようになる。
きっと全部、うまくいくのだろう。たぶん。
未来のことなんて分からないから、ぼんやりと目の前に広がる空に願いを込めた。
夜が、もうすぐ始まろうとしていた。深い青と淡いオレンジが、水面に落とした絵の具のように溶け合っていた。
忘れたくないなあ、と思った。目の前にあるものだけを見ていたかった。
「大丈夫、大丈夫」
小さくささやいた言葉が、風に消えるよりも先に、するりとわたしを包み込んだ。
今はまだ、この根拠のない大丈夫を信じて、自転車を漕ぎ続けたい。
<竹内アンナ>
◆紹介曲「 ALRIGHT 」 作詞:Anna Takeuchi 作曲:Anna Takeuchi
◆新作『MIXTAPE』
2026年8月12日発売
<収録曲>
1. ok, love song
2. PARADISE
3. adabana midnight
4. ハッピーエンドの続きを
5. P.S. I LOVE YOU
6. That's my name
7. 真昼のランデヴー
8. My secret plum