作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、山口県出身のギタリスト / ボーカロイドプロデューサーであり、「天ノ弱」や「残響」など数々の名曲を生み出している“164”さんをゲストにお迎え…!
作詞論
共感。
反骨精神溢れたロックも、女子高生に人気の恋愛ソングも、原点は共感だと思っています。
たとえどんなにお洒落な言葉遊びやキラーフレーズでも、それが何の事を言っているのかわからず
全く共感できない歌詞であればその価値を失うと思っています。
[ 164さんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    一番最初に作詞をしたのは中学生の頃ですが、作詞をしたくてしたというよりも“作詞作曲”をしたかったので作詞もする必要がありました。作詞の本を買ったり他人の歌詞を読んで勉強したり、真剣に考える様になったのはVOCALOIDを始めて以降です。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    提供楽曲の場合はテーマや資料をいただくのでそこから広げていくのですが、VOCALOID曲などで自分の曲を書く場合は日常の小さな事で、そこからできるだけ狭い視野で歌詞を書きます。

    例えば今このインタビューを受けている風景、目の前にスピーカーがあり、天井には電球色の照明、それに向かって観葉植物が伸びている、足元には影が落ちている、と狭い世界の情景描写を歌うだけで、今まさに僕が色々悩みながらキョロキョロしている様子が浮かぶかと思います。

    ここで書く歌詞が「今僕はキョロキョロしている」だと解像度があまりに低いので、もっと狭い視野、ミクロを積み重ねて引きで見た時にマクロに見える事を大事にしています。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    基本的にはAメロから順々に書いていきますが、作曲の段階で音にくっついている言葉や、途中で浮かんだ言葉は、別途メモとして少し離れたスペースに書いておきます。

    また、ラップほどではないですが韻を踏む事を大事にしているので、先のセクションで使用する予定の母音や文字数をメモしておいたりもします。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    基本的にはパソコンに向かって作業します。韻辞典や類語辞典を画面いっぱいに開いて、Macの純正のメモアプリに歌詞を書いていきます。

    Apple製品同士であるMacとiPhoneのメモアプリはリアルタイムで連動しているので、作詞途中で席を離れる時などもiPhoneを手に持っていきます。大枠はMacでテキストを打っている時に浮かびますが、あと三文字浮かばない、音数が合わない、みたいな時に煙草を吸っていると浮かんだりするのでそういう時にiPhoneを持っていると助かります。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    僕はまだ死ねない」を書いていた時は、まだ子どもが産まれる前で、かつ僕が扁桃炎で高熱が出て、しかも大外れの病院に行き2週間くらい全く治らないみたいな中でした。先ほどとは矛盾しますが、高熱が出て寝込んでいる時って、生命だったり宇宙だったりとてつもなく大袈裟な事まで考えが高速回転し明後日の方向へ巡るので、この曲はその末に書いた歌詞だったりします。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    誰もが思っている事、一度は考えた事がある事、でもなかなか言語化できない事を言語化した歌詞。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    Mr.Childrenの「HERO」です。
    Mr.Childrenのどの曲にも多大な影響を受けていますが、特にこの曲からは“いかに自分がちっぽけな存在であるか”を書く事を学びました。自分を小さくみせるからこそ「そんな自分でもこうありたい」が強く刺さるのだと思いますし、その思想は今でも僕の中で大きな指針となっています。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    よく使うのは「ほら」「今」「ただ」などの二文字の言葉です。作曲の癖なのか譜割的に二文字の音が余る傾向にあるので、そういう時に当てはめると便利な言葉はメモにストックしています。

    また、理由はわかりませんが「消えていく」「証明」もよく登場します。これもただの思考の癖だとは思います。

    使わない様にしているのは、例えば冬をテーマに曲を書く時にできるだけ「冬」という言葉を使わない事です。

    もちろん先方から花火の曲で「花火という言葉を入れてほしい」のような注文を受けることがあるので、やむを得ず使用する事はあるのですが、自分のポリシーとしては基本的には使用しません。

    俳句の夏井いつき先生の添削ではありませんが、外に雪が降っていて息が白ければ季節は冬だとわかるので説明する必要がないからです。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    作詞とは直接関係はないかもしれませんが、やはり健康第一だと思います。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    「音楽に人生救われた」なんてのは詭弁で、人の悩みはそれぞれで音楽は誰も救わない。

    だってどんなに良い曲を聴いても僕のおばあちゃんは生き返らないし、母ちゃんの病気は治らないし、子育ての悩みは尽きない。

    でも、良い曲を聴いている間は幸せだ。

    リスナーが聴きたいのはサクセスストーリーや偉人の応援歌ではなく、朝寝坊したり、ダイエットに失敗したり、上司や先生に叱られたりするあなたの歌だと思います。

    背伸びをしない事が一番魅力的だと思っています。頑張ってください。

歌 手
164 feat.初音ミク
タイトル
僕はまだ死ねない
いかに自分がちっぽけな存在か、表せた一節だと思い気に入っています。一応良心はもっているけどそれを表現する勇気がない自分と罪悪感を抱えて生きている。僕は全く特別なものを持っていない超普通の人だと思っているので、きっとそのまま表現すれば共感してくれる人は多いのではと思い飾らずに書きました。
山口県出身のギタリスト / ボーカロイドプロデューサー。
ボーカロイドを使用した楽曲を制作する傍ら、様々なアーティストやゲーム等への楽曲提供を積極的に行う。

これまでに7枚のメジャーアルバムをリリースし、ライブイベントにも他国内外問わず精力的に出演中。大のレスポールマニア。