私もお気に入りのフレーズがAyaseさんとほとんど同じなんです。

―― 祝福」は原作小説を読んでから聴くとより深みが増すのですが、一方で、小説を知らなくてもちゃんと応援歌として成り立っていると感じました。YOASOBI楽曲にはそういう力もありますよね。

Ayase そう、そこもこだわりなんですよ。もちろんガンダムを観てほしいし、原作小説も読んでほしいですけど、この曲のみを聴くひともかなり多い。まったくその情報を知らないひとからしたら、たとえば<コクピット>というワードひとつとっても、聞き馴染みがないと思います。だから多少は情景が見える描写が必要で。でもガンダムがあっての楽曲にはしたい。そのへんのバランス感覚はどの楽曲でもすごく難しいですね。便利な言葉なので、いつも「バランスが難しい」って言ってしまいがちなんですけどね(笑)。

―― おふたりがお気に入りのフレーズを教えてください。

Ayase この曲においていちばん言いたかった大事なことは、<この星に生まれたこと この世界で生き続けること その全てを愛せる様に 目一杯の祝福を君に>なんですね。だけど個人的にメロディーとか含めて気に入っているのは、ラストサビの<君がその手で変えていくんだ>の一行ですね。このフレーズは鳥肌が立つんですよ。ikuraがめちゃくちゃいい歌唱をしてくれたし。

こういう中腹というか、サビが2周折り返すところって、音程的にガッって上がってから突入することがこれまで多くて。でも今回あえて、低いところにメロディーを落とし、オクターブ上で2音出すみたいなことをやったんですね。そもそも頭からかなり高いピッチで歌っているからこそ、ここですっと落ちることで、囁くような、それでいて力強い歌声になって、ものすごくパワーワードが際立つとやってみて気づいた。それはikuraだから成立したところがあると思います。音的にも歌詞的にもすごく気に入っていますね。

―― 歌詞を書いたときと、ikuraさんが歌ったときでまた感じ方が変わるんですね。

Ayase かなり変わりますね。僕は初音ミクでデモを作るんですけど、「祝福」もその段階からいいかもなと思っていたし、ikuraが歌ってもいいものになるだろうなと想像はしていたんです。だけど実際に形になると、想像以上に素晴らしかったですね。

ikura ちょっとビックリしているのが、私もお気に入りのフレーズがAyaseさんとほとんど同じなんですよ。1番サビの<決して一人にはさせないから>って部分。私もやっぱりここでスンと下がるのが好きで。サビではスレッタのすごく強いイメージを感じさせるじゃないですか。「強く突き進んでいくぞ!」みたいな。でも<決して一人にはさせないから>で、音程が下がってちょっと遠くに聴こえるときは、「あ、スレッタはやっぱりエアリアルのなかで強くなれるんだ」って思う瞬間でもあって。

そして、<決して一人にはさせないから>って、すごい言葉じゃないですか。簡単に誰かに言えることじゃない。エアリアルがスレッタのことを幼い頃からどれだけ思ってきたか、ふたりの絆を感じるフレーズだなとも思います。だからこそエアリアルがあっての、そのなかに包まれているスレッタを想像するというか。私はここがすごくグッとくるポイントですね。

―― では、もう少し作詞のお話もお伺いしていきます。歌詞面で影響を受けたアーティストというと?

Ayase 僕はマキシマム ザ ホルモンさんが大好きなんですね。彼らを見てバンドを始めたし、すごく影響を受けています。彼らの歌詞って英語のように聴こえるけど、実はすべて日本語だったり。意味はないけど音が気持ちいいから入っている言葉も多くあったり。あれって新感覚だったんです。

やっぱり歌詞は詩なので、文字だけを読んだときにも成立してないといけないし、ストーリーになっていないといけない。だけどそっちに注力しすぎて、メロディーを殺してしまっている歌詞って結構あるんですよ。誰のどの曲とかではなく、「歌詞がもったいないな」と感じることが多い。日本語ってとくに母音と子音の使い方が難しいので。

僕は音楽を作る上で、言葉の音としての気持ちよさは欠かせない要素だと思っていて。自分が歌詞を書く上でも、韻を踏むこと然り、気持ちのいい楽曲を作りたいんですよね。その上でちゃんと詩としても成立させたい。そういうこだわりのきっかけをくれたのは、マキシマム ザ ホルモンさんだなと思います。

ikura 私はRADWIMPSさんですね。中学生の頃から聴き始めて、今でも新曲が出れば必ず聴きます。文章にしてしまえば一文で終わってしまうようなひとつのテーマや出来事を、めちゃくちゃ細分化して具体的に書かれていて。同じ意味をこんなにもバリエーションがある言葉で伝えられるのかって。しかもみんなが自分事のように気持ちを重ねられる歌詞が本当に素晴らしいなと思って。

私も歌詞を書くとき、ひとつのことをできるだけ細分化していきたいんですけど、すごく難しいんですよ。もちろんRADWIMPSさんは語彙力や知識の量も違うと思うんですけど、言葉の組み立て方や音に寄り添った言葉の選び方にビックリします。あと、綺麗すぎない言葉、歌詞ではあまり使われないような言葉も魅力的で。有名なところですと「君と羊と青」とか「会心の一撃」とか。個性と共感性のどちらも持っている歌詞に、いつも「あぁ…またやられた!」と思いますね。

―― YOASOBIにとって、歌詞とはどんな存在のものでしょうか。

Ayase 小説を音楽にするって、できた楽曲がその小説のBGMになるわけでもないし、テーマソングになるわけでもない。その小説そのものであって、そのものでない。同じものが核としてあるけど、表現方法が違う新たな作品という感じで。だから書いている人間としては、歌詞によって“YOASOBIの作品”になると思っています。僕らが独立したYOASOBIというアーティストとして作品を世に出していくために、すごく重要なもの。歌詞があることで、僕らはYOASOBIになれる気がしていますね。

photo_02です。

ikura 聴くひとが必ずしも原作小説にたどり着くわけではないけれども、やっぱり私たちの根底には必ず小説があって、その物語から音楽が生まれていて。私はボーカルとして、歌詞と小説を行き来して、「この主人公はどう思ってこう歌っているんだろう」と照らし合わせながら、そこをヒントに歌を乗せていくんですね。だからYOASOBIにとっての歌詞は、小説と音楽を繋ぎ、私たちを導いてくれる存在だなと思いますね。

―― ありがとうございます。最後に、YOASOBIがこれから挑戦してみたい歌詞はありますか?

Ayase 何が書きたいというよりも、自分たちが素敵だと思える作品に出会えたらいいなという気持ちです。もちろんまだやったことないジャンルもたくさんありますけど、そのすべてに期待しているので。

ikura 私も同じですね。自分が歌ってみたい歌というより、大前提に小説との出会いだなと思います。

Ayase こればかりはご縁がすべてですね。


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