呪い呪われた未来は 君がその手で変えていくんだ
逃げずに進んだことできっと 掴めるものが沢山あるよ もっと強くなれる
この星に生まれたこと この世界で生き続けること
その全てを愛せる様に 目一杯の祝福を君にもっと歌詞を見る
―― まずは今、改めて他己紹介をするとしたら、お互いにどのような印象がありますか?
ikura 私ちょうど先日、「ikuraさんにとってAyaseさんはどんなひとに見えますか?」みたいな質問をいただいて、改めて考えてみたんです。Ayaseさんとは結構プライベートでも一緒にいろんな方とお食事に行ったり、お話をしたりする機会があって。そこで同じ空間にいて思うのは、みなさんAyaseさんには気を遣わずに喋っているなって。きっと誰がAyaseさんといても心地いいんだろうな、そういう存在ってすごいなと思ったんです。それをひと言でいうと…、何だろう。
Ayase 意外とフレンドリー?
ikura フレンドリーとも少し違う気がするなぁ。Ayaseさんが自覚的にそうしているわけじゃないんだけど、誰でも最初から近い距離感で接することができる雰囲気を持っているひとですね。
Ayase ikuraはやっぱりひと言で表すなら、天真爛漫かな。ファンの方のイメージとしても「わかる」ってなると思うんですけど。現場での明るさもそうだし、何より動けるひとなんですよ。意外と人間って何かやってみたくても、そんなに行動できなかったりするじゃないですか。でもikuraは興味の向いた物事に対して、どんどん進んでいける活動力がある。YOASOBIを始めたこと自体もそうだし。もちろん大変なこともあるんだけど、そこでニコニコやっていけるのも才能だと思うので、そういう意味も含めて、天真爛漫ですね。
―― いちファンとしておふたりを見ていると、どこか波長が似ているような気もします。
Ayase あー、似てないところも多いけど、根底にあるものが多分めちゃくちゃ通じている気はします。パッと出てきた考え方とかがわりと近いところがあるよね。
ikura うん。それはたしかにあるね。
Ayase いい感じにお互いねじが飛んでいるので(笑)。じゃないとYOASOBIはやってないなと思いますね。
―― 少し遡りまして、人生でいちばん最初に書いた歌詞って覚えていますか?
Ayase 覚えていますね。
ikura うん。
Ayase 僕の場合、昔は今よりふわっとした歌詞を書いていました。しっかり伝えたいメッセージがあったわけでもなく、ただ「歌を作れればいいな」ぐらいの感覚。しかも当時16歳で。高校を途中でやめて、「俺はバンドで生きていくんだ!」という気持ちで書いた歌詞なので、モラトリアム期だからこその内容だったと思います。やりたいことは明確で期待もしていて…、という思いをバーッと出している感じでした。
―― 初期衝動のような。
Ayase そうそう。遊んでいる仲間とかバンドメンバーがすべてだったし、すごく世界も狭くて。漠然と、「俺たちはこれからどうなっていくんだろうね。でも何かになりたいよね」みたいなことを歌っていたと思います。フレーズもめちゃくちゃ覚えているんですけど、恥ずかしいので言いません(笑)。
―― ikuraさんはいかがですか?
ikura 私は最初に作曲したのって、小学校6年生の卒業のときだと思っていたんですよ。記憶では。仲良かった友だちが別の中学に行くことになったので、その子に作詞作曲した歌をあげたら喜んでくれるかなと思って、初めて作ってプレゼントした曲なんですけど。
でも最近、小学校5年生のときに書いていた日記を発見しまして。もう…すごい内容だったんですけど(笑)。当時、好きだったクラスの男の子との今日あったこととかを書いていて。そのあとに歌詞みたいなのが綴られていたんですよ。それは普通の文章とは明らかに違ったので、歌詞を書いたつもりなんだと思います。今見返すのは耐えられないくらい、恋に恋しているような、想いが溢れて書いたであろうものが発掘されて。実はそんな恋の歌がいちばん最初です。私は小学生の頃からこういうことをしていたんだなって思いました。
―― YOASOBIは、Ayaseさんに「小説を音楽にするユニット」プロジェクトのお声がかかり、そこからボーカル探しをされたそうですね。弾き語り動画を上げている方がたくさんいるなかで、ikuraさんはどのようなところが光っていると感じましたか?
Ayase 当時の感覚としては、親しみやすいけれど聴いたことがないような声色をしているな、という印象が強かった気がしますね。ただ未知数な部分は大きかったです。ikuraの歌声の特性を今、改めて言語化するなら、変幻自在であるところが魅力だなと思います。これは去年ぐらいからとくに感じていて。クリアともちょっと違う、無色という色を持っているように感じますね。
―― YOASOBI楽曲は、どのような流れで制作していくのでしょうか。
Ayase 楽曲を共有するのは、レコーディングのタイミングが初めてですね。だからikuraがだいぶ先になって情報を知ることも結構あったりします。僕の場合は大体、そのスケジュールから逆算して、「構えといてね」ってジャブが入るんです(笑)。
ikura あれが伏線だったかー!みたいなね。
Ayase そうそう。で、俺が楽曲を仕上げたら、ikuraにパスしてって感じだよね。
ikura 役割分担がしっかりしているので、楽曲制作についてはAyaseさんに完全に委ねていますね。レコーディングでは、「この歌詞はこう歌ってみようと思うけどどうかな?」とか相談して、作り上げていく感じですね。
―― 小説が元にあるゆえのこだわりや難しさもありそうですね。
Ayase 山のようにあります。でも最近とくに思うのは、現実的な話になるんですけど、スケジュールが忙しくなってきて、何曲も同時に作らなきゃいけないときの難しさで。小説が元になっているからこそ、その世界にちゃんと入り込まないと絶対に書けないんですね。そうじゃないと作者の方にも失礼ですし。だから、同時進行で何曲もやるとか、一瞬だけ別のアレンジに戻るとなったら、まず1から小説を読み直すところからスタートする。1~2日空いちゃうと、ワンフレーズを書くだけでも莫大な時間がかかるんです。そこが最も大変ですね。
―― その世界に入り込むときAyaseさんは、小説の主人公を見つめるような感覚なのでしょうか。もしくは主人公になりきるような感覚なのでしょうか。
Ayase もう2層ぐらい深いところにいく感覚ですね。小説の概念に入り込むというか。たとえば今回の「祝福」だったら、原作小説「ゆりかごの星」でのガンダム・エアリアルの思いとか、監督が考えている『水星の魔女』のコンセプトとか、今作でいちばん伝えたいメッセージとか、そういうものをどんなバランスで歌詞に入れるかは正直、足し算と引き算をずっと続けていく感覚で。感情的というよりは、しっかり考えて組み立てていく作業なんです。それはパーツが与えられているから、そこまで難しいものではありません。
ただ、そのいろんなパーツを自分なりに解釈した上でさらに、聴いたひとにどう思ってほしいか、曲として最後にみんなに残るものは何かを考えていくわけです。そのために、小説のなかで自分の生活が当てはまるところとか、多くのひとが思っていることをリンクさせられるような言葉とか、そういうものを日常のなかでずーっと考え続けるフェーズに入っていく。そこがいちばん深い層に入っていく瞬間ですよね。
作詞中は一瞬でも気が散ると、0から感情づくりのやり直しになるから。とにかく毎回、原作の概念にどれだけ早く入り込めるか、そしてどれだけ長く入り続けられるかの戦いですね。
―― ikuraさんはレコーディングの際、どのようなマインドで歌われるのですか?
ikura レコーディング中は歌うことだけに集中しているので、主人公が憑依しているとかではないんですね。ただ、楽曲を聴きながら歌詞を読んで、どんな声色でどんなニュアンスをつけようか考えているときには、やっぱりどこかゾーンに入っているようなところがあります。
小説の世界とAyaseさんが歌詞にしてくれた言葉の意味を考えた上で、主人公は今、どんな思いでこのフレーズを伝えたいのか想像して。そうやって作り上げたイメージをレコーディングの日に歌で体現する感覚ですね。