ゴールは「それでも祝福したいし、祝福されたい」というところだった。

―― 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ「祝福」の原作である小説「ゆりかごの星」は、主人公スレッタがアスティカシア高等専門学園に編入する前のストーリーですね。

Ayase はい。スレッタの幼少期から描かれていて、その小説がOP曲になるからこそ、こだわりたいポイントがありました。1度聴いて、「ガンダムっぽい歌詞だね」とか「空気感が合っていてカッコいい曲だね」だけで終わる作品にはしたくなかったんです。

アニメの物語が進んでいくにつれ、観ているひとたちもスレッタやエアリアルに対する気持ちって、変わってくるじゃないですか。同時に、冒頭で流れる「祝福」の聴こえ方も変わってくるような歌詞にしたいと思って。いろんな捉え方で息をし続ける曲であってほしいというか。そして最終回を迎えたときにも、「まさに『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のオープニングは「祝福」だったな。本当にいい曲だったな」って思ってもらえるようにしようという気持ちで作りましたね。

―― 原作小説「ゆりかごの星」で印象的だったシーンをあげるとすると?

photo_02です。

Ayase スレッタは何かあるたびに、コクピットのなかに逃げ込んできていたんですね。その感じがめっちゃかわいいなと思って。ガンダムのコクピットって仰々しいじゃないですか。戦うためのロボットを操縦する空間なので非常に危なっかしいし。でもそこを自分の安息地としていたって、すごくかわいい。あと、エアリアル自体がスレッタにとっての親友であり、家族であり、帰る場所であることも表しているなと。なので歌詞にも絶対にコクピット周りの話は入れたかったんです。僕のお気に入りのシーンですね。

ikura 私はひとつのシーンというわけじゃないんですけど、エアリアルの思いがたくさん綴られている場面が印象的でした。エアリアルはお母さんの目論見も、スレッタの人生のレールが決められていることも知っているわけじゃないですか。スレッタが「私は学校に通うんだ」って言ったときにも、思うことはたくさんあって。でも喋ることはできない。そこはなんとも苦しさがありましたし、グッときましたね。

―― 小説からも「祝福」からもガンダム・エアリアルには人間味を感じました。曲のなかでエアリアルが成長している気もして、最初はただ<君>を見つめているのですが、徐々に<僕達は操り人形じゃない>とか<いつの間にかこんなに強く>とか、どんどん感情が溢れてきているような。

Ayase たしかにそれはありますね。「祝福」における最初のエアリアルの像としては、スレッタに対する心配と、「危険だよ」というメッセージを発したい思いがあるわけです。「君は母親や他人から受けた呪いのために、自分が犠牲になる必要はないんだよ」と言いたかった。それゆえに小説でも最初、エアリアルは別の場所で新たな挑戦をするスレッタを応援できないんですよ。

でも、最終的には、逃げずに進むことでたくさんのものを掴もうとする<君>を応援するし、守りたい。そういうエアリアルの気持ちでアニメのストーリーに入っていけるよう、変化の部分を大切にしました。あとYOASOBIは小説を音楽にするユニットだからこそ、起承転結もしっかりつけたかったし、原作小説の物語と同じところにゴールを設置しようとこだわりましたね。

―― 「祝福」というタイトルにはどのようにたどり着いたのでしょうか。

Ayase やっぱり『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も「ゆりかごの星」も「呪い」がひとつのテーマになっていると感じていて。スレッタが親から受け取った呪いであり、もともと母親が受け取ってしまった呪いであり、エアリアル自体にかけられた呪いであり。そこからいろんなキャラクタターたちの感情が生まれる。そして僕らも親からだったり、社会からだったり、それぞれにしがらみや呪縛ってあるじゃないですか。そういう呪いからどう抜け出すかというテーマを考えていきまして。

で、設置したいと思ったゴールが「それでも祝福したいし、祝福されたい」というところだったんですよね。エアリアルがスレッタの人生を祝福できてほしい。スレッタも自分の人生が祝福されるべきものだと思いながら進んでほしい。今、親や上司からの呪縛を感じているひとたちも、自分の人生を祝福してあげられる勇気を持ってほしい。曲作りの最初の段階でそういうゴールとして「祝福」というタイトルがパン!と決まりました。

―― 最初に生まれたのはどのフレーズでしたか?

Ayase まず頭のメロディーが最初にできて。当初はその<遥か遠くに浮かぶ星を 想い眠りにつく君の 選ぶ未来が望む道が 何処へ続いていても 共に生きるから>のセクションがサビになる予定だったんです。頭サビを歌って、Aメロに進んで、別のBメロがあって、またこの頭サビが来る予定だった。でもこの頭は、サビに行く前のBメロのほうが合うなと思って。途中でBメロに変えて、新たにサビを作ったんです。なので順序的には本当に冒頭のフレーズからできていった感じですね。

―― 原作小説の「逃げたら一つ、進めば二つ」というセリフも印象的で、それは「祝福」のサビにも反映されていますよね。ただ小説を読んでいくと、最初はスレッタにとっておまじないだったそのセリフが、徐々に「呪い」にもなり得るところが難しいなと。

Ayase やっぱりそこはいろいろ考えますよね。すごく多角的で。だからエアリアルが伝えるべき言葉ではないかなとも思ったんですよ。ラストサビの<逃げずに進んだことできっと 掴めるものが沢山あるよ>という部分。ただそれでも、最後はスレッタへの信頼があるからこそ、伝えたかった言葉になったところもあり。

―― 「祝福」のラストでこの言葉が歌われることで、また希望的にも聴こえますね。

Ayase そうそう。呪いって難しくて。ある瞬間は呪いかもしれないけれど、ずーっと同じものがつきまとっていった結果、角度が変わって呪いじゃなくなるときもあるじゃないですか。歌詞を書いているときはまさに、こういうことを延々と考えるんですよ。いまだに「呪い」や「祝福」の概念についての答えははっきり出ているわけじゃないんですけど…。でも、ちゃんと柱のある歌詞にしたかったので、曲としてのひとつの答えを見つけて、最後のサビを書きましたね。

―― ikuraさんもいろんなことを考えながら歌われたと思うのですが、とくにどんなことを意識しながらレコーディングされましたか?

ikura 今までの作品においては、技術的な部分や細かい声色をわりと作り込んでいくことが多かったんですね。でも「ゆりかごの星」を読んで、Ayaseさんの楽曲を聴いたとき、これは最初から何かを作り上げていくより、とにかく私がこの物語を読んだ感動のまま、ストレートに表現するのがいいんじゃないかなと思って。

「ゆりかごの星」も「祝福」もエアリアル目線で描かれているんですけれども、エアリアルを通して、スレッタが強く踏み出していく姿だったり、未来を切り開いていく決意だったりが、すごく見えるなと思ったので、その気持ちの面はしっかり歌声で乗せたいなと。そう思って歌いましたね。

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