子供と大人の境界線

 2024年1月10日に“レトロリロン”がEP『ロンリーパラドックス』をリリースしました。今作には、各地大型フェスの出演を経て完成した「ヘッドライナー」、初のオーケストレーション楽曲「たださよなら、命燃え尽きるまで」の既発2曲に加え、レトロリロンの過去最高傑作であり代表作になるであろう「TOMODACHI」を含む、全6曲を収録!
 
 さて、今日のうたコラムでは“レトロリロン”の涼音による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、収録曲「TOMODACHI」にまつわるお話です。人間関係で躓いたことがあるあなたへ。今もどこか他者を信頼できずにいるあなたへ。このエッセイと歌詞が届きますように。



人間関係で初めて躓いたのは中学生の頃だった。
小学生の頃のままの精神状態で中学校へ進んだ僕は、思春期という壁に阻まれて孤立してしまった。
今思うと自分自身も思春期のそれだったのかもしれないが、仲良くしたいと思う人ほど距離感を間違えて傷つけてしまう。自分のどの言葉が相手を傷つけたのか分からず、いつしか僕は人と会話することを辞めた。
 
中学校での人間関係をうまく形成出来なかった僕は、同じ中学校の人が来ないような遠方の高校をわざと受験した。大人になって高校生の話をする時、普段は軽音楽部に入る為に受験したと言っているが、おそらく半分くらいは地元から逃げたかったんだと思っている。軽音楽部も軽音楽部で濃い話があるが、その話はまた別の機会に。
 
話を戻すと、高校では新しい自分で上手くやっていこうと思っていた計画がまた大きな壁に阻まれる。
 
中学生時代に孤立した僕は、知らない間に「無駄に他人を疑う」「相手の悪いところを探す」という能力を培ってしまっていたのだ。そんなこともあって相手との関係に一枚大きな壁を自ら作り出していた。
 
ここから先は安易に想像できると思うが、中学生時代の繰り返しである。少し大人になった分、人と会話は出来るものの誰も信用できず、他人と一定の距離感を保ちながら高校生活を終えた。
 
大学に進学し、思春期も落ち着いた僕は晴れて「他人を信用しない意固地な価値観」という爆弾を抱えたまま生きていくことになる。今こうやって文章を書いているこの瞬間もいつまた爆発するのか分からない恐怖と闘っている。大学も例によって中学、高校の繰り返しである。
 
大学を卒業し音楽が生業になり始め、自分自身と向き合う時間が増えた。
自分と向き合っているとふと頭をよぎることが一つある。それは「自分さえ変わっていれば全て上手くいっていたんじゃないか」ということだ。当然、人生というものは甘く無いので“全て”という表現は正しくないかもしれない。でも、他人と上手く関係を築けた未来はあったのかもしれない。
 
自分の態度や価値観が原因で逃してしまった機会がたくさんあったであろうことに寂しさを感じている。
 
しかし、正直なところ僕は人の気持ちがわからない。
上手くいかなくなる前に言っておいてほしかったとも思ってしまう。そんな矛盾した自分の感情が溢れ出てしまった結果、音楽家である僕は曲にするしかなかった。
 
今までの自分が間違っていなかったとも思いたいし、間違っていたとも思いたい。
そんな僕のどうしようも無い人生に必要だったのが「TOMODACHI」なのかもしれない。
 
<レトロリロン・涼音>



◆紹介曲「TOMODACHI
作詞:涼音
作曲:涼音

◆EP『ロンリーパラドックス』
2024年1月10日発売
 
<収録曲>
01. TOMODACHI
02. 独歩
03. DND
04. たださよなら、命燃え尽きるまで
05. ヘッドライナー
06. 夢を見る