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Wienners ライヴレポート

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【Wienners ライヴレポート】 『BURST POP ISLAND TOUR 2020 FINAL』 2021年2月25日 at TSUTAYA O-East

2021年02月25日@TSUTAYA O-East

撮影:かい/取材:帆苅智之

2021.03.06

《ドラムス ベース ギター シンセサイザー マネージャー イベンター/エンジニア ライツ サウンド/そして この歌が届くのも あなたのおかげ当たり前じゃないって》《THANK YOU SORRY この世で一番欲しいものだろう/何かが変わると信じている/やれないことなんて 一つもないよ my precious》。そう歌われる「SUPER THANKS」で幕を開けた『BURST POP ISLAND TOUR 2020 FINAL』。歌詞が図らずもコロナ禍での音楽業界の状況とシンクロしてしまったように思えるが、それはWiennersのロックが上辺をなぞっただけの紛い物ではなく、普遍的なものである何よりの証拠だろう。

本編後半のクライマックスで披露された「UNITY」も然り。《UNITY UNITY とち狂った世界でも 全てはいつか一つになれるかな/ぶっ壊れた心だって 元どおり一つになれるかな/ぶっ飛ばして未来へと この声を繋いで守り抜けるかな/結び合って高め合って 絶頂の奇跡は生まれるから》。この楽曲は、2020年5月13日に発売されたアルバム『BURST POP ISLAND』に収録されてはいるが、初出はそれ以前、2019年6月にライヴ会場限定作品『BATTLE AND UNITY』で発表されたナンバーである。世界がこんな状況になるとは誰も予想だにしなかった頃に生まれたものだ。玉屋2060%(Vo&Gu)の真っ直ぐな思想、Wiennersのロックバンドとしてのピュアな立ち位置が、閉ざされたエンタメ業界の中で輝きを増してきたことは、ある意味でアイロニカルにもとらえられるかもしれないが、ここは素直にWiennersの可能性の高さを湛えたい。

そうそう。この「UNITY」では“普段は歌わないけど、∴560∵、歌う?”と玉屋に促され、頭サビ部分を∴560∵(Ba&Cho)が歌った。あれはツアーファイナルという特別な高揚感の中で生まれたアドリブ的ハプニングだったのだろうけど、臨機応変に(?)ああしたことをやれるのはライヴハウスで活躍するバンドならではのことだろう。そこにもWiennersの本質を垣間見ることが出来たように思う。

MCも秀逸だった。
“声出せないし、触れあえないし、いろいろ制限があるけど、これが今の、日本の、世界のライヴハウスです。今の音楽の在り方です。どうか最後まで、目に焼き付けて帰ってください”。
“どんなに歪だったって、あなたたちの頭の中を、ここの場所は肯定し続ける。俺たちは肯定し続ける。全てぶちまけて帰ってってください”。
“今日ここに来る時にさ、“俺、今日はWiennersのライヴを楽しめるのかな?”とか、“私、大丈夫かな? 楽しめるのかな?”とか、ちょっと不安とか、みなさんにはあったかもしんねぇけど、もう忘れてください。大丈夫です。大丈夫っていうか、Wiennersの音楽って別にどうなっていようが、鳴ってりゃ、みなさんに届くと信じてるんで。顔見たら分かります。届いてます。大丈夫です”。

本編前半で話したものを抜き出しただけでも、“2.25玉屋宣言”とでも言いたくなるほどに力強い言葉が並んだ。そもそもWiennersのライヴは(説明する必要もないような気がするけど)モッシュ&ダイブは当たり前。∴560∵が“この人たち、ほんとはすごいですからね。時々、俺らのこんなの(=マイクスタンド)倒したりするんだから”と言っていたように、良く言えばステージと客席とが一体となる、言葉を選ばずに言えば会場全体がゴチャゴチャになるのが常で、まったくMCをしないわけではないけれども、ことさらにMCが多いバンドという印象はない。もしかすると、ライヴ会場全体に圧倒されっ放しで、これまでMCに耳を傾けることが少なかったからかもしれないけれど、今回は特に聴く人の胸に迫って来る台詞が多い印象ではあった。これもまたコロナ禍という状況の中で図らずも生まれたものだったかもしれないが、いちいち琴線を刺激されたことを記しておきたい。

会場全体がゴチャゴチャになるのが常と前述したし、パンキッシュでダンサブルなナンバーがその大半を占めるのは間違いないのだが、決してそれ一辺倒ではないのもWiennersというバンドのポイントではある。最新作『BURST POP ISLAND』ではクラシカルな要素を取り込んだ「Kindergarten Speed Orchestra」がそうだし、前作『TEN』であればアサミサエ(Vo&Key&Sampler)が歌う「愛鳥賛歌」がそうだろう。それらはバンドのバラエティー豊かを示すアクセントであり、Wiennersというバンドの奥深さを示す重要なファクターにもなっている。この日、演奏された楽曲で言えば、フォーキーな「午前6時」であったり、曲中盤のブレイクでのアサミサエの歌唱が印象的な「十五夜サテライト」であったりがそれに当たるだろう。アップチューンだけでなく、セットリストの中に緩急があること、あるいは一曲の中でも緩急があることが、モッシュ&ダイブ不可のライヴでは相当に活きた。区切られた升目の中から動けず、声も出せない観客がいるフロアーを前にして、BPMの速いナンバーだけでは如何に百戦錬磨のライヴバンドとは言え、なかなか対処し切れないだろう。これまた図らずも...ということになろうが、この特殊な状況においてWiennersのポテンシャルが発揮された格好だったとは言える。

個人的に印象に残ったことをもう少し挙げるとすると、まずはその「十五夜サテライト」でのアサミサエの歌。彼女は間違いなく歌がうまくなっている。これまではそのキュートな歌声と、玉屋のヴォーカルやハードめなサウンドとのコントラストが楽しいところであって、それは引き続きそうなのだが、この日の「十五夜サテライト」で見せた、やや神秘的なニュアンスには思わず唸らされた。これはこれまでとは違ったWiennersの武器になるのではないかと思う。そんな未来に繋がる面をしっかりと見せてくれた。あと、これは配信ならではの映像だろうが、時折見せるKOZO(Dr)の姿も記憶に残った。普段のライヴであれば、ステージ奥が彼のポジションであるから、フロアーの広めのライヴハウスの後方にいたら、彼の顔を拝めないこともある。だが、この日は当然、配信用のカメラが入っているので、後方の彼のドラミングの様子もしっかりとシューティング。そして、画を抜かれる度にKOZOは笑顔を見せてくれた。その映像を観て、こちらは不思議な安心感を得る。清々しいKOZOのキャラクターもまたWiennersに欠かせないものであり、こういうドラマーがサウンドの屋台骨を支えていることをバンドにとって相当に大きなことではないかと思った。

撮影:かい/取材:帆苅智之

Wienners

2009年初頭、玉屋2060%を中心に吉祥寺弁天通りにて結成。パンク畑出身の瞬発力と鋭さを持ちつつも、どこかやさしくて懐かしい香りを放つ男女ツインヴォーカルの4人組ロックバンド。予測不可能だけど体が反応してしまう展開、奇想天外かつキャッチーなメロディーで他に類を見ない音楽性とユーモアを武器にさまざまなシーン、世代、カルチャーを節操なく縦断し続けている。

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