僕らって多分、ザ・応援歌があまり得意ではないんですよ。

―― 今作『BLUE CHEMISTRY』というタイトルはどのようにたどり着いた言葉なのでしょうか。

堂珍 ジャズとか、大人っぽい歌には「BLUE」のイメージが合うんじゃないかと。

川畑 昔、『Hot Chemistry』ってアルバムも出したんですけど、コンセプトの決め方としてはあのときと同じで、内容が真逆という感覚です。あれから月日が経って、年齢を重ねた僕らだからこそ届けられる歌、ということで。

―― 1曲目「Play The Game」は、松尾潔さん、そして堂珍さんと川畑さん、3人での共作詞ですね。

堂珍 プロデューサーの松尾潔さんにふたりでそれぞれ言葉を投げて。

川畑 そうそう。ディスカッションして共作したわけじゃないんですよ。

堂珍 しかも歌詞というより、文章をバーッと書いてお渡しした感じで。

―― なるほど。では「J SPORTS STADIUM2024 野球中継テーマソング」であるということと、楽曲のみを共有して、そこからそれぞれイメージを膨らませて書いたのですね。

堂珍 はい。なので、1つの曲から出てくる言葉ってやっぱりお互いに違うんだなと感じました。僕は野球が好きなので、選手が試合前、ゲージ裏で素振りをしたり、汗水を流したりする姿を想像したんです。そういうときにこの歌がBGMで流れて、ちょっとでも耳に入ってくれたらいいなって。移動中とかに聴いて、「頑張ろう」って思ってもらえたら最高だし。あと「Hey!Ho!」みたいなアツいアッパーな曲もいいけど、うちらはそういう方向ではないなと。

―― 肩に力が入るような応援の仕方ではなく、<もっと 自由な汗 流そう もっと 自由な涙 流そう>とむしろいい意味で肩の力が抜けて、開放感がありますね。

堂珍 そうそう、そういう方向で前向きになれるキーワードを意識しました。主人公像もリアルにイメージして。たとえば、選手は「プロ野球ドラフト会議」で指名を受けるんですけど、その発表を家族も見守っているわけじゃないですか。なかには、両親のどちらかが亡くなられていたり、いろんな家族模様があって。そういうストーリー上に、プロ野球選手としてのスタートがある。つまりもうそのひとの物語は始まっているんですよね。

そんな主人公像が<生まれた時からずっと 背負ってきた期待>や<栄光までの道のりに付きまとう孤独>というフレーズに繋がっていると思います。プロの選手も一人間として悩んだり不安になったりするだろうし。ましてや野球選手だけに聴いてもらうわけではないからこそ、そのひとの物語に寄り添うような曲になればいいなという気持ちで歌詞を考えました。

―― 川畑さんはいかがですか?

photo_01です。

川畑 僕のほうはもう完全にジムのワークアウトをイメージしていました。ワークアウトって孤独だし、ものすごく自分と向き合う時間なんですよ。ポジティブとネガティブをずっと行き来しながら、身体を動かしている。そうやって自分がいつもワークアウト中に考えていることと、選手だったらどんなことを考えるだろうかということをリンクさせながら書きましたね。実際ワークアウトが終わったあと、バーッと言葉を書いて送ったんです。

―― とくに<今はただ体動かして 乗り越えてくだけ>というフレーズなど、ワークアウトに通じそうですね。

川畑 まさに。ワークアウト中に「何やってんだろう…」って思う瞬間もやっぱりあるんですよ。その時間は必ず次の自分に繋がっているはずなんだけど、やっている最中はそう思えない悔しさがある。そういうときに、それでも<今はただ体動かして 乗り越えてくだけ>だと自分に言い聞かせて、前に進んでいけたらなと。

しかも野球はチームだし、そのひとりとして選ばれているからこそ「負けちゃいけない」という気持ちも強いだろうし。だから、日々とんでもない量のトレーニングをこなして、自分の身体を作り上げているんだろうなって想像して。僕は嘉邦のように野球に詳しくはないんですけど、自分が普段やっていることと繋がるものがあるんじゃないかなと、思いを書いていった感じです。

―― おふたりとも異なる切り口で歌詞を書かれていますが、1つの曲になったとき、自然と思いがマッチングしているように感じます。

堂珍 僕らの場合、「こういう歌詞にしよう」って事前に話したほうが、むしろ材料が減るような気がします。野球中継テーマソングではあるけれど、自然とお互いいろんなバランスを取りながら書いていったんだろうなって。

川畑 うん。曲を通して聴いてみたとき、すごく好きだなぁと思いましたね。今、ライブをやっているから余計に実感します。僕らはまだまだしっとりしたバラード系のイメージが強いと思うんですけど、こういう爽快で前向きな歌詞の楽曲も歌っていて気持ちいいですね。

―― 応援ソングでありながら、心地よい人生賛歌のようでもありますね。

堂珍 そうですね。カラッと明るくて、小難しいことを歌っていないこのシンプルさは、女性の方にもより気に入っていただけそうな気がします。スタッフさんとか、まわりの女性陣からも好評なんですよ。僕らの「キミがいる」という楽曲に近い感覚で、爽やかな疾走感、清潔感がある感じ。

川畑 僕らって多分、ザ・応援歌があまり得意ではないんですよ。「頑張れ!」みたいな。アツすぎる言葉が似合わない。とくに今回は楽曲がこれだけ気持ちのいいものだったので、歌詞もそれを活かすものにしたいなと。何より、僕らがバーッて投げた言葉を、こういう形にしてくださった松尾さんがやっぱりすごいなぁと思います。

―― ちなみに、長く活動されているアーティストの方から「大人が歌う応援歌の難しさ」についてよくお伺いするのですが、おふたりも年齢や経験を重ねたからこそ意識される部分はありますか?

堂珍 難しいですよね。やっぱり応援歌って、20代前後のアーティストが同世代やより若い世代に向けてエールを送っているイメージが強いんですけど。自分たちは今40代で、いろんな経験を積んできた分、何が楽しいとか何がツラいとか変わってきているんですよ。それが50代、60代になったらもっと知らない境地が待っているんだろうし。すると、自分にとって何を「応援歌」とするかも変わる気がして。本当の意味での応援歌って、もっと深いところにあるというか。

川畑 たしかに。単純ではない応援歌もたくさんあるね。思えば僕自身にとっては、10代の頃の応援歌ってX JAPANだったし。尾崎豊さんの「15の夜」だったし。人間って綺麗なことばかりじゃないから、いいことばかりを歌う応援歌にはしたくないなという気持ちがあります。それに自分よりずっと若い世代で、もっと経験値や人間力が高いひともたくさんいると思うと、偉そうなことも歌いたくないし…。

堂珍 中島みゆきさんの「ファイト!」だったり、エレファントカシマシさんの「俺たちの明日」だったり、ウルフルズさんの「ガッツだぜ!!」だったり、いろんな応援の仕方があって、いろんなぶっ刺さり方があると思うんですよ。もちろん僕らのこの「Play The Game」がぶっ刺さってくれるひともいるかもしれないし。だからどんなときも、自分たちにも聴くひとにも、無理なく響く歌を大事にしたいなと思いますね。

―― おふたりがとくに好きなフレーズを教えてください。

堂珍 <Play つかみとれ この瞬間を>かな。まず<つかみとれ>ってあまり僕らの楽曲で歌ってこなかったワードな気がして。あと、“瞬間をつかみ取る”って、ライブのときにもある感覚だなと思います。

川畑 僕は2番Aメロの<胸を張れ 時間 (とき) は もう走り出してるのさ>が好きですね。あと<栄光までの道のりに付きまとう孤独>とかも。まさにそうだったなぁと思います。

―― 「Play The Game」には、おふたりの活動の軌跡も重なるフレーズが詰まっていますよね。

川畑 そう思います。松尾さんが、CHEMISTRYを想像して入れてくれたんだろうなって思うフレーズも多くて。僕らもいろんな経験をしてきたからこそ、「Play The Game」の歌詞に共感しながら歌っていましたね。

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