チャイム

 2025年1月29日に“鈴木実貴子ズ”がメジャー1stアルバム『あばら』をリリース! 今作には、すでに配信済みの「違和感と窮屈」「暁」を含む全12曲が収録されております。アートワークは、メジャー2nd 配信シングル「暁」のMVを手掛けたクリエーターの大川直也が担当し、アルバムのコンセプトを"骨"で表現したポップで目を引くデザインに。
 
 さて、今日のうたではそんな“鈴木実貴子ズ”の鈴木実貴子による歌詞エッセイを3週連続でお届け! 今回は第1弾です。綴っていただいたのは、収録曲「チャイム」にまつわるお話。子どもの頃の美しい思い出と、生活をまわすだけで忙しい今。けれど、ふと思うことは…。ぜひ楽曲と併せて、エッセイをお楽しみください。



小学校の時の思い出ってどれぐらいある?
 
雨の日、算数で使うおはじきを田んぼに全部落として、友達のアミちゃんと半泣きで拾った。全部が泥だらけ、今思うと美しい思い出。 
テストが終わって後ろからプリントを回して回収していく。 後ろの席は橋本君、藁半紙の紙にめっちゃよだれついとるやんけ!汚ねぇ!寝過ぎやろ! 
帰り道の公園で子猫を拾った。うちは親が猫嫌いやで絶対飼えやんよな~犬もおるし。でもかわいすぎるから、お兄ちゃんと協力して傘でかくして家に連れて帰る。その夜当たり前にすぐバレて、車で遠くまで猫は連れられて行った。泣いたな~(同じ事2回あったな~)。 
 
今思えば全ての思い出が美しい、きっとそんな事もないんだろうけど。
家に帰ればご飯があった。働かなくてもお小遣いがあって、お風呂は順番に入って、会話があって、声が飛んでいた。 気兼ねのない関係というか、愛の中でただ息をしている。
 
うちの場合、そこに父はいなかったし、細かい複雑な問題はあるけど、そんなの薄まるぐらい、思い返せば、全てが美しいのだ。
 
今、一人暮らしの家に帰る。ただいまーと言えば、猫がニャーと鳴く、会話のできる人間はおらず、ご飯を作らなければ食べるものはない、働かなければお金はない。通帳ひらいて、うわーガス代きつー。シンクの生ゴミが少しにおう。ネットかえなきゃなーゴミの日って明日やっけ? え、てか今日何曜やっけ? とりあえずトイレいこ、あ、洗濯機、山やんけ。洗わんかったら着る服は無くなるし、干さなきゃ乾かない。そーいや保険って今どうなってるっけ? 友達の親、入院したっぽいけど結構大変そうやな、大丈夫かなあ。当たり前すぎるこの生活と、なんでもやってもらえた過去の生活とを比べると「あーあ、昔は良かったな」だなんて、ださい言葉が出る。
 
こんな事言っちゃう自分、歳とったなー。 洗濯が終わり、干しに行く。真っ赤な夕焼け、え、なに、なにこの美しさ。色んな不安と問題をかかえながら生活をまわす、その中で見る夕焼けと、小学生の時、「あ、チャイムなったー!帰ろー!」って言いながらみた夕焼け。変わらない夕焼けなのに、なんかすごいじんわりくるぞ、大人の夕焼けって、、。 
 
なんだあ、この感覚も悪くないじゃんか。未来の事、歳を重ねる事に、やんわりとした希望を感じる17時。ちょっと丁寧にTシャツを干す。 
 
<鈴木実貴子ズ・鈴木実貴子>


 
◆メジャー1stアルバム『あばら』
2025年1月29日発売
 
<収録曲>
1. かかってこいよバッドエンド
2. 暁
3. 違和感と窮屈
4. ファッキンミュージック
5. 36℃
6. ベランダ
7. ヘイヘイユー
8. チャイム
9. あか
10. ベイベー
11. 壊してしまいたい
12. 私、天使だっけな