少女は100年前の世の中に思いを馳せる。

 2024年4月24日に“土岐麻子”がソロデビュー20周年記念オールタイム・ベストアルバム『Peppermint Time ~20th Anniversary Best~』をリリースしました。2枚組となる CDアルバムのDisc1を「Pepper」サイド、Disc2を「Mint」サイドとして、過去作品からセレクトした30曲と、新録の「美しい顔 (with 礼賛)」を収録。都会的で、新しくて、それでいてどこか懐かしい、そんな土岐麻子の“シティポップ”を堪能できる作品となっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“土岐麻子”による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、ベストアルバム収録曲「美しい顔」にまつわるお話です。外見に不安を抱えているあなたへ。そして、無意識のうちに他者の身体的特徴を評価してしまうあなたへ。歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



2019年に書いた「美しい顔」。
内容は、歌詞としては分かりやすいものではないかもしれません。
制作時のメモはこのような感じでした。
 
2119年、少女は祖母が若かった頃の画像を見つめている。日付は100年前の2019年。とても輝いていて素敵な笑顔。しかし祖母は子どもの頃に外見を揶揄され苦しみ、そのコンプレックスから逃れるために危険な大手術を受け、顔を変えたそうだ。
少女は100年前の世の中に思いを馳せる。
「自分が美しいかどうかを誰かのものさしで堂々とはかられる時代があったなんて、人はどんなに生きづらかっただろう。祖母の生きた時代は野蛮で壮絶な時代だったのだな」と。
 
音が先にあって、あとから歌詞をつけていきました。最初はパーティーに出かけよう的なパッパラパー!なものでしたが、何曲も一緒につくってきたトオミヨウさんから初めて「うーん…」という反応が返ってきて、一度リセットして書き直すことにしました。そのときドキュメンタリーで泣きながら美容整形を受ける女性の姿を観て、この歌詞が出てきました。先にも述べたように、複雑な設定に迷いもありましたが、思い浮かんでしまってからはどうしても引き返せませんでした。
どんなメイクをしようが、まぶたを切ろうが骨を削ろうが、文様を入れようが穴を開けようが舌を割ろうが、自らがやりたいことならそうする自由があるし、飾ったり変身したりする選択肢があることは豊かなことです。
ただ、他人の言葉に左右され苦しみ、変身に追い込まれるようなことがあってはいけないはず。制作時に一番強く思っていたことは、自分の価値観で誰かの姿をはかることはおろかなことだ、ということです。
外見に不安を抱える人にも、誰かをそういう気持ちにさせる人にも、この曲を伝えたかったのです。
 
私自身、じつはどちらの立場も経験しています。誰かをけなした覚えはないけれど、反対に、たずねられてもいないのに誰かの顔の作りや体型を賞賛した覚えはあります。それは褒めているつもりでも、人の身体的特徴を自分勝手に評価する行為でしょう。
 
この数年で、価値観の違いを尊重する考え方や態度を身につけることがスタンダードになりつつあるように思います。
100年後の未来が、この歌詞の主人公が暮らすような「100年前のルッキズムを野蛮に感じるほど、生きやすい時代」になっていればいい…そう願います。楽観的でしょうか。
 
<土岐麻子>



◆紹介曲「美しい顔
作詞:土岐麻子
作曲:トオミヨウ


◆ソロデビュー20周年記念
オールタイム・ベストアルバム
『Peppermint Time ~20th Anniversary Best~』
2024年4月24日発売

<収録曲>
Disc1 -Pepper-
01. 美しい顔 (with 礼賛)
02. PINK
03. Rain Dancer
04. トーキョー・ドライブ
05. BOYフロム世田谷
06. Ice Cream Talk feat. G.RINA
07. CAN’T STOP feat.大橋トリオ
08. STRIPE
09. Gift ~あなたはマドンナ~
10. Valentine
11. 乱反射ガール
12. Fancy Time
13. smilin’
14. モンスターを飼い馴らせ
15. SUPERSTAR
16. 美しい顔
 
Disc2 -Mint-
01. Peppermint Town
02. エメラルド
03. ドア
04. mellow yellow
05. NEON FISH
06. High Line
07. RADIO
08. 夏夜のマジック
09. 愛のでたらめ
10. 都会
11. ファンタジア
12. NEW YEAR, NEW DAY
13. Rendez-vous in '58 (sings with バカリズム)
14. HOME
15. 眠れぬ羊 (with TENDRE)