KANという存在についての話をしようと思う。

 2023年12月6日に“meiyo”がメジャーデビュー後初のアルバム『POP SOS』をリリースしました。メジャーデビュー曲「なにやってもうまくいかない」、エナジードリンクZONe ENERGYとのコラボ曲「未完成レゾナンス」、2023年au三太郎CMソング「ココロ、オドルほうで。」に加え、数々のジャンルを超えた名だたるアーティストへ書き下ろした提供曲のセルフカバーも収録。ヒット曲を多数収録した全14曲入りアルバムとなっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“meiyo”による歌詞エッセイを3週連続でお届け! 今回が最終回です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「Cat Scat」にも、そして自身にも大きな影響を与えている“KAN”という存在について。meiyoの人生を一瞬で変えたフレーズとは…。



どうも、meiyoです。③です。最終回! 寂しいですね。
 
この度、念願だったフルアルバム『POP SOS』をリリースしたわけですが、①では「なにやってもうまくいかないとアルバム周辺について」、②では「ビートDEトーヒとアルバムタイトルについて」と語ってきました。
 
ということで今回。やはり、このアルバムを作るにあたって、というか人生において多大な影響を与えてくれた、もはや語らないわけにはいかないKANという存在についての話をしようと思う。
 
まず、なぜKANちゃん(御本人がそう呼ばれたいと言っていたのを見たので、敬意を持ってそう呼ばせて頂きます)について語ろうと思ったのかというと。
アルバムに収録されている新曲の「Cat Scat」という楽曲の構造や歌詞の世界観、そしてブックレットに記載されている【視覚化された楽曲情報】などは、実はKANちゃんがかつて行ってきた手法をオマージュしたものなのです。
 
 
当時、鳴かず飛ばずであった僕に、あるレーベルの方が「これ、きっと好きだと思う」とCDを貸してくれた。それがKANちゃんとの出会いで、そのCDは当時発売されたばかりだった『6×9=53』というアルバム(2016年)。
正直言うと「愛は勝つ」の人、ぐらいの認識で、まっすぐな歌を歌う方なんだろうな、ぐらいに思っていたので、アルバムの1曲目「Listen to the Music Deco☆version」を聴いて度肝を抜かれた。
 
開始10秒、まだストリングスのイントロしか鳴っていないのに、「あ、この人、天才だ」と確信。そこから飛び込んでくる斬新な言葉選び、歌詞とリンクするウィットに富んだアレンジ、そして信じられないほどシックリくるメロディの数々。
 
そして現れた僕の人生を一瞬で変えた歌詞。
 
“大好きで 大好きで あこがれて
マネて おいかけて なりきっても
なにがどうマズイんだろうか 現実はシャバダバで”
 
ここまで振って、一番肝になるはずの部分を「シャバダバ」と歌ってのけたKANちゃんに、僕は打ちのめされた。そうだよな、そこを歌ったら、粋じゃない。
 
この曲はおそらく、KANというアーティストとしての矜持みたいなものを歌った曲だと思われる(のちに知るが、KANちゃんはまさしくこの歌詞の通り、自身の大好きなアーティスト・楽曲に強い敬意を払った大胆なオマージュを数多く行っている)。
 
当時の自分は25歳、それなりに音楽を沢山聴いていたつもりだったので、まさに盲点。そこから全アーティストを一気に飛び越え、僕の好きな音楽家ランキング1位(複数人いるが)に登りつめた。それほどの衝撃。
 
でも、そこから意識的に僕の音楽制作が大きく変わったかというと、実はそんなこともない。
おこがましくも、敢えて言葉を選ばずに言うと、KANちゃんが作ってきた音楽、考え方、遊び方など全て、僕がやりたいことと非常に近かった。ただ僕が存在を知らなかった、ってだけで。
ひとつ違うのは、その全てが桁外れにハイレベルだった、ということぐらい。
 
僕には僕の「僕を形成してきた音楽たち」があって、
同様に、KANちゃんにとってのそういった音楽もあって、
互いに、全く違う音楽を聴いてきたはずなのに、辿ってみればどっかで偶然ルーツが同じだったり交わったりしていて、結果的にすごく近しいところに立っていた。そんな感覚。
何を意識せずとも、僕の作る楽曲には自動的にKANちゃん風のエッセンスが入ってきてしまう、とも言える。
 
だから僕は変わらず、僕が作りたい曲だけを作りつづけた。
偶然見つけてしまった 追いつけないほど遠くでひょうひょうとしている その少し小さな背中に憧れながら。
 
2019年、KANちゃんの為だけに作った世界で一枚のmeiyoの手作りCD-Rを人づてにお渡しさせていただいた。
なんと、KANちゃんはそれを律儀に聴いてくれていたようで、2022年になってそのCDの収録曲を自身のラジオでかけてくれた。
のちに、直接お会いしてご挨拶する機会をいただいたが、憧れからくる緊張のあまり「その節はありがとうございました」以外、ほとんど何も話せなかった。
まぁ、今度リベンジすれば良いか。KANちゃん とだったら、飲めない酒だって飲むぞ。
 
ほどなくして2023年、KANちゃんはメッケル憩室がんを公表。
僕は、KANちゃんのことだから大丈夫だろうと精一杯楽観しながら、メジャーデビュー後初となるフルアルバムを制作していた。
 
このご時世、曲をデータにして送ることだって出来るけど、せっかくだからご自宅にある押し入れCD棚の「め」の欄、僕のショボっちい手作りCDの横に並べてほしいなと思って、それはしなかった。
 
冒頭で触れた「Cat Scat」のこととか、ブックレットの内容とか。いやあ、大好きで憧れてマネておいかけてなりきってみたら、こんなにもシャバダバな仕上がりになっちゃいましたよ、って。
“今度君に会ったら”そんな話しをしよう、なんて思っていました。
 
2023年11月12日、KANちゃんは亡くなりました。僕のCDは、ちょうど工場で作られている真っ最中。
 
間に合わなかった。悔しかった。
そうして、“君がいなくなった”世界で、滞りなく無事完成した『POP SOS』というアルバム。
僕を救ってくれた音楽家たちへのアンサー。そして、もしかしたら誰かを救えるかもしれないアンセムがたくさん収録されている。
 
まさか、作った自分自身が一番にこのアルバムに救われるとは思わなかったけど。
 
僕がKANちゃんや数多くの音楽家から受けた影響たちがこうして音や言葉となって誰かに届くことで、間接的にでもその存在が生き続けてくれたら。それこそが僕が音楽をやっている意味そのものなのかもしれない。
だって、同じように、いつか僕の音楽に影響を受けた誰かが、いろんな形で僕の存在を生かし続けてくれるはずだから。
うん、それでこそ、シャバダバです。
 
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
これからもよろしくね。
 
では、股。(ま、最終回ですけどね。)
 
<meiyo>



◆紹介曲「Cat Scat
作詞:meiyo
作曲:meiyo

Listen to the Music
作詞:KAN
作曲:KAN

◆メジャー1stフルアルバム『POP SOS』
2023年12月6日発売 

<収録曲>
1. KonichiwaTempraSushiNatto (POP SOS Ver.) 
2. なにやってもうまくいかない 
3. クエスチョン 
4. PAKU
5. ねぇよな
6. 未完成レゾナンス 
7. ビートDEトーヒ
8. ココロ、オドルほうで。
9. KANPAI FUNK feat. フレデリック
10. Cat Scat 
11. っすか? 
12. 希望の唄 
13. 魔法の呪文 (POP SOS Ver.) 
14. いつまであるか (POP SOS Ver.)