捧げた心臓

 『THE FIRST TAKE』に初登場し、ロングヒット曲「悪魔の子」を披露した“ヒグチアイ”が2ヶ月連続で新曲をリリース。11月23日には、ABEMAの人気恋愛番組『恋愛ドラマな恋がしたい in NEW YORK』に書き下ろしの新曲「ネオンライトに呼ばれて」を。12月9日には、NHKみんなのうた 2022年12月-2023年1月に書き下ろしの新曲「小さな夢」をリリースしました。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな“ヒグチアイ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第1弾。綴っていただいたのは「悪魔の子」にまつわるお話です。『THE FIRST TAKE』に初登場し、ピアノ弾き語りで披露されたこの曲。公開2日間で100万回再生を記録するなど大きな反響を呼び、現在も再生数を伸ばし続けております。改めて歌詞と併せて、このエッセイを受け取ってください。



この曲を書き上げるにあたってiPhoneのメモ帳フォルダに“進撃”というフォルダができた。一番最初に書かれた言葉は「僕らは許されたい生き物」だった。悪くない。でも使われなかった。その後、いろんな言葉が出てきた後にこの曲ができあがった。
 
性善説、性悪説。もともと人間はどっちなんだろうか。どこにも善人なんていないように見える日もある。自分自身の内側に善が一つも見つけられないような日もある。でもはたしてそれは、間違ったことなのか? 悪いことなのか? そもそもそう思うからこそ、人に優しくなれるのではないか?
 
 
それはそうと、今食べているパンケーキが美味い。わたしは真ん中に置かれたバターが溶けてメープルシロップがたっぷり吸い込まれているそこが好きだ。だから、周りから少しずつ食べていって、真ん中を残す。一番最後に食べるぬっとりしたその一部分を食べるためにパンケーキを食べている、と言っても過言ではない。
 
そういえば、メロンパンの上のサクサクした部分だけを集めました、という売り文句で売り出されているお菓子がある。あれを見つけたときに、うわあなんてものを発明してくれたんだ!!神様!!いやお菓子メーカー様!!ありがとう!!そう思いすぐさま購入した。しかし一つ目を食べた瞬間に、あれこれじゃない、と思った。なんか足りない。三つ目で気付いた。メロンパンとは、あの味のない(失礼)ふわふわしたパン部分を食べてこそ、サクサクのメロン部分が生かされていたのだ。このパンケーキもそうで、真ん中のぬっとり部分だけが集まったパンケーキでは魅力が足りない。つまり苦行を経験してこそ悟りを得られるのだ。3歩歩いた先に山の頂上があったら誰も山に登らないし、一瞬で習得できる技は特技とは言わないし、百発百中当たるギャンブルがあったら誰もやらない(?)。
 
だから遠回りして遠回りして、それになんの意味もなかったなんてことはなくて。大人になったら過程より結果だとか言うけど、きっと一瞬で辿り着いた結果には確信が持てなくて。小さく積み上げたものが、次の一手に確実に繋がっていて。そしてもう一度同じことをやろうとしたら、きっとできる。だって過程を知ってる。レシピを知ってるから。考えて自分で向き合った時間が、そのあとの自分を形作っている。
 
ということで、わたしの“進撃”というフォルダは「悪魔の子」と「まっさらな大地」を生み出してくれたわけだけど、そこに埋もれていったたくさんの輝かしい命の言葉たちは、この曲たちを歌うときにいつもこっそり、歌の意味を支えてくれているのです。
 
わたしにとっての“捧げた心臓”は見えないところで高鳴っている。

<ヒグチアイ>



◆紹介曲「悪魔の子
作詞:ヒグチアイ
作曲:ヒグチアイ

◆New Single「悪魔の子 - From THE FIRST TAKE」
2022年12月23日配信
配信サービス一覧:https://lnk.to/akumanoko_tft