Q)堀内さんは、作曲はされますけど、歌詞は書かないんですか?
何曲かは、書いてるんですけどね。これまでの長い音楽人生の中でも、4〜5曲しかないですね。どれも名もない作品ばかりです(笑)。僕は、詞が浮かばないんですよ。一節くらい浮かんでも、その先が続かないんですよ。だから、詞を書く人は、天才だと思いますね。
Q)曲はどうやって書かれるのですか?
僕は、アリス時代から、100%詞先(歌詞先行)なんです。詞が先にないと、曲が作れないんです。荒木とよひささんも岩谷時子さんでも、そうなんです。だから、作詞家さんからはいやがられますけどね。
詞を頂いたあとは、家の物入れの引き出しに、歌詞をはさんでおくんですよ。何作も。そうすると常に目に入りますから。何日も何日も曲が出来ないんですけど、でも、ある日、突然、とっかかりが出来る日があるんですよ。そうすると、その人の詞の書き方の癖とか、特徴がわかってくるんです。
Q)フォーク、ニューミュージック、歌謡曲・演歌と、作風が変わってきていますが…?
とくに意識的にやっているわけではないんですけど、詞のモチーフによって、曲のカラーが決まってしまうんですよね。詞が歌謡曲であれば、メロディも歌謡曲になりますね。詞の中に、そういうメロディがあるんでしょうね。
Q)作詞家さんによって作りにくいこととかはありますか?
お付き合いの長い、荒木先生なんかは、気心も知れてるんで、「ああ、こういう感じのメロディを望んでるんだろうなぁ〜」っていうのはわかりますね。アリス時代は、チンペイさんが書いてきた詞に、「ここ変えてよ〜」とか、いろんなこと言えたんですけど、小椋佳さんに詞を書いてもらった時には、正直「まいったなぁ〜」って思いましたね。知らない言葉も多かったですし、小椋さん独特の言い回しがあるんですよ。だから、最初、なかなか書けなかったですね。「ここ変えてください」とも言えないですし、「これはこういう風に作りましたから、このままでいっていただいた方がいいと思います」って簡単に言われるんですよ。ほんとに出来なくて、四苦八苦しました。
Q)それぞれの作詞家さんの印象を教えてください。
小椋佳さんは、理路整然としていますね。出だしから、世界観がすごくあります。荒木とよひささんは、世間、大衆と溶け合っていますね。のんべい横町とか行って話してて、そこでの会話が詞になっていたりするみたいですね。すごく普通なんです。だから、失礼なんですけど、「先生、誰でも書けますね、こんな詞!」ってよく言うんですよ、そうすると「じゃあ、おまえ書いてみろよ!」って言われるんですけどね(笑)。でも、そういう、「誰でも書けそうな詞」っていうのが一番難しいんですよね。やっぱり、荒木とよひささんてすごいと思いますね。
阿久悠さんは、もう、上段の構えですね。武士と対決してるみたい(笑)。もう巌流島ですよ(笑)。刀に例えると名刀。阿久さんも四苦八苦しました。松本隆さんは、言葉の魔術師ですね。すごく韻を踏んでたりとかするんですよね。チンペイさん(谷村新司)は、一見、難しそうなのが来たりするんですけど、意外とそうでもなかったりするんで、僕はそこを責めたりするんですけど、「これは意味あるんですか?」とか。そうすると「お前に言われる筋合いはないよ。お前書けよ」って言われて、「だから書けないから頼んでるんでしょ」って言いかえしたりして、しょっちゅうモメてました(笑)。
<作詞家別・作曲作品>
・谷村新司・作詞 「君のひとみは10000ボルト」「遠くで汽笛を聞きながら」「ジョニーの子守唄」「秋止符」など
・荒木とよひさ・作詞 「恋唄綴り」「竹とんぼ」「影法師」「ガキの頃のように」「都会の天使たち」など
・小椋佳・作詞 「愛しき日々」「憧れ遊び」「遥かな轍」「山河」など
・阿久悠・作詞 「青春でそうろう」(ペンネーム・多夢星人、名義)など
・松本隆・作詞 「愛染橋」「青春まよい人」など
Q) アリス時代で、とくに詞が気に入っている曲を教えてください。
やっぱり、アリス時代だと「遠くで汽笛を聞きながら」ですね。生き方の理想なんですよね。人の原点みたいな部分があの詞にはあるんですよ。とにかく頑固な主人公ですよね。「なにもいいことがなかったこの街で」暮らして行くんでしょ。ふつう、暮さないですよね(笑)。「この街が好きだから」ってのはわかるいんですけどね。何もいいことがなかったのに、なぜこの街にいるんだろう?ってね。
まあ、こじつけて言うと、「もともと人生には期待しちゃいけない」ってことなんですかね。「もともと何もないんだけど、それでもがんばる自分」みたいな…。ひょっとしたら、自己陶酔の歌なのかもしれませんね。あれは、小椋さんも理解できないって言ってましたしね。あの人は理路整然としてるので、「なぜこんなに苦労するの?」「苦労の仕方間違えてない?」とか言ってました(笑)。
Q)ソロになられてから、とくに詞が気に入っている曲を教えてください。
小椋佳さん作詞の「愛しき日々」ですね。サビの「愛しき日々の はかなさは 消え残る夢 青春の影」に凝縮されてるんですよね。誰しも、やっぱり、凛々しくない自分もいて、時折、この歌を歌ったり聴いたりすると、なんか自分の中に「これじゃいけない」って力が湧いてくるような気がします。
Q)曲を提供してみたい歌手っていらっしゃいますか?
いっぱいありますよ。歌手というよりは、曲に合わせてって感じですね。たとえば、曲が出来上がって、「これ、おれが歌うより細川たかしちゃんが歌った方がいいよなぁ〜」とか、「これは、おれより吉幾三の方がうまい」とか、「これだと、石川さゆりさんが歌ったら世界観が出るんじゃないかな〜」とか、よく思います。
Q「この人にはかなわない!」という歌手、作家は誰ですか?
いやぁ〜、かなわない人ばっかりでしょ。中でも、小椋佳さんとか井上陽水さんとかは、天才だと思いますよ。
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