渦巻く夏のフェルマータ

やがて魔法から醒めてゆく
排水口に夏が渦巻く
君の気配が薄れていく
僕を残して

定まった被写界深度
下回った低い融点
頬を伝ったこれが最後
まだ僕は取り繕って
永遠だった筈の想いを
気化熱が奪っていく

雨も涙も
栓を抜いたプールの思い出も
行き着く先は海の果て

君はもう流れ着いた?
僕をここに残したまま
季節は今ゆっくりと動き出した
風が冷たくて
魔法が解けていく

どんな言葉も
あの日拾った貝殻も
ボロボロの君の袖透かした空も

昨日と重なる水面より数センチ上空で
僕は生まれて初めて酸素の味を知る
それは嘘のように甘くて
弱っていく君の歪な笑顔を思い出した

鯨の星座は恐ろしい怪物の形をしているんだ
君が教えてくれた

水色の宇宙に落下する視界の中
切り裂くような朝焼け
もう空が白んでいた


風が髪を揺らしている
君の髪を揺らしている
海の果てをここに感じる
目を開いて

いつの間にか
もう秋晴れに心を冷まされて
君のおでこの
温度も思い出せない
それでいいと思える

薄情な僕のこと
赦しはしないでね
君らしくもないでしょう
いつかきっと巡り遇うよ
甘い夢
内なる海の果て
巻き鍵を回すよ
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