―― 改めて収録曲の主人公たちを見たとき、ご自身が描く子に何か共通する特徴や性質ってありますか?
あまのじゃくな子が多いかなぁ。とくに『痛み』サイドの子たちは、自分が思っていることとは違うことを伝えてしまいがち。恋愛において、素直にいられることがいちばん大事で、いちばん難しいことなので。そういう部分こそリアルに書けたらいいなと思っていますね。
―― 逆に『喜び』サイドの子たちは、ストレートに溢れるように「好き!」を伝えていますよね。
そうそう、たしかに『喜び』の子たちは素直です。本当はそうありたいのに、あまのじゃくだから痛い目にあっちゃうんでしょうね。あと『喜び』の子たちのほうがより心が強いイメージがあります。
―― その強さは、恋愛がうまくいっている状況ゆえの自己肯定感からくるのでしょうか。
そうなのか、もしくは「うまくいかすぞ!」って心意気があるのか(笑)。たとえば「狙うは君のど真ん中」は、片思いの曲ではあるんですけど、すごく前向きに書いていて。受け身になっちゃう女の子って多いじゃないですか。相手の出方を待ってしまう。そうじゃなくて、女の子でも手に入れたいものは自分で手に入れる強さを持って恋愛してほしいなって気持ちがあって。だからこの曲もやっぱり「自分でつかみ取る!相手は関係ない!」みたいなところがある。
勇気を出せる子と出せない子の行きつくところって別だと思うんです。うまくいかなかったとしても、勇気さえ出せていれば、あまのじゃくのままうまくいかなかった結末とは全然違う。成長もできるし。『喜び』サイドには、そういう強さを持った女の子が多い傾向がありますね。逆に勇気を出さないで後悔した子たちが『痛み』サイドにたくさんいるんだと思います。
―― 主人公の人称についてこだわりはありますか?
一人称は、どの主人公も自分ではないので、<私>でも<僕>でもあんまり書きやすさは変わらないんですよ。でも二人称はふたりの距離感や関係性によって、意識して使い分けていますね。たとえば<君>は対等な感じ。でも<あなた>になると、ちょっと相手のほうが上であるイメージがあって。曲を書きながら、「これはどっちかな」と考えながら書きますね。
―― 1曲のなかでもストーリーが進むにつれ、呼び方が変化したりもしますよね。たとえば「恋に落ちる音が聞こえたら」はずっと<あなた>と呼んでいたのが、終盤でふいに<君>になったり。
特にこの曲は、恋のはじまりなので関係性がちょうど変わるタイミングなんですよね。曲のなかでの関係性や気持ちの流れはかなり意識しながら書いています。それは歌詞だけじゃなくて、サウンド面でも。そのフレーズで描いている気持ちに寄り添った音を探す。それは詞先だからこそできることだと思うし、そこが楽しいところですね。
―― では、全収録曲のなかで、とくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。
やっぱり「夢で逢う」かなぁ。<夢を見てしまった>という歌詞なんですけど、とくに<夢の中だけど、久しぶりで目が見れなかった まだ好きだって気持ちが 夢を通じてあなたに伝わっていないか とても不安です>っていうフレーズがすごく好きで。相手に伝わっているわけないじゃないですか(笑)。なのに不安になっちゃうくらい、夢を見たときヒヤッとしてしまった感じというか。そのヒヤリ感が出せた歌詞かなと思います。
―― たとえ夢であっても、また心を動かされたことがどこか嬉しい気持ちもあるんですかね。
あ~、でも「見てしまった!」っていう気持ちのほうが大きいのかもなぁ。やっと立ち直れてきて、日常から相手の存在を消して、ちゃんと生きていけるようになったのに、夢を見てしまった。しかも最後には<ただ、あなたの笑顔が見たい>って言っちゃっていますから。一気に振り出しに引き戻されて、リセットされてしまった痛みを書けた1曲ですね。
―― 宮崎さんにとって歌詞とはどんな存在のものですか?
いつのまにか書くことがすごく楽しくなっちゃったものですね。もとはといえば、曲を作るために歌詞を書いていたので、あまり意味も持たなくていいと思っていたんです。でも、自然と歌詞が主役になっていると感じるようになって、歌詞がきっかけで好きになってくれた方も多くて。自分にとっても、SHISHAMOにとっても、重要な存在になったなと思います。
―― 歌詞を書くときいちばん大事にすることは何ですか?
わかりやすさかなぁ。小学生とか若い子が聴いてもわかるような歌詞にする。あと、たとえその曲の主人公みたいな経験がない子でも、その恋愛をしているような気分になってほしいので、みんながスッと入ってきやすいような言葉を使うように意識していますね。だから難しい横文字とかはあまり使わないです。
―― 好きでよく使う言葉、逆に使わないようにしている言葉はありますか?
好きとはまた違うんですけど、書いていて多くなっちゃうのが、自分をちょっと情けなくみせる言葉。でも、醜かったり、情けなかったり、恥ずかしかったりする恋だから愛おしいんですよ。心が綺麗なままで恋愛できることってあまりなくて、どんどんぐちゃぐちゃになっていくのが当たり前。「それでいいんだよ」って気持ちが自分のなかにあるんだと思います。
使わないようにするのは、横文字を含め、調べないとわからないような言葉。他にはないかもしれません。縛りを作りたくないというか、どんな言葉にもアレルギーを持たずにいたいんですよね。最初は限られた言葉のなかで書いていたんですけど、「今まで書いてない言葉だから書いてみよう」とか「避けてきた言葉だけど書いてみよう」とかどんどん広がっている気がします。それによっていろんな主人公が生まれるようになりましたし。
―― 言葉を縛ってしまうと、自然と主人公も似通ってきそうですもんね。
そう。やっぱり主人公を“宮崎朝子”で縛っちゃいけないという気持ちがすごく強いんですよね。
―― 最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。
30曲あっても、同じ恋愛は1つもないことを思うと、きっと私がまだ書けていない恋愛ってたくさんあるんですよね。これだけ人間がいても、まったく同じ恋愛をしているひとは絶対にいない。可能性は尽きない。だから自分はこれからもずっと、新たなラブソングを書き続けていきたいなと思っています。