劇場版アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』主題歌&挿入歌収録のEP!

 2022年9月7日に“eill”がNew EP『プレロマンス / フィナーレ。』をリリースしました。今作には、飯豊まりえ・鈴鹿央士が声優を務める劇場版アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』の主題歌「フィナーレ。」&挿入歌「プレロマンス」「片っぽ - Acoustic Version」を含む全5曲が収録。「私から音楽がなくなったら、存在理由もなくなる」と語るeill。そんな彼女が、原作を何度も読み返して書き下ろした楽曲への想いをじっくりとお伺いしました。“ギャルマインド”を大切にする表記のお話や、“ボスキャラ的”な存在である歌詞へのこだわりにも注目です。
(取材・文 / 井出美緒)
フィナーレ。作詞:eill 作曲:eill・Ryo'LEFTY'Miyataダーリン もう離さないで 素っ気ない世界も悪くないね
どんなに恋をしたって忘れられないの 終りのない幸せにキスをしよ
味気ないね でもそれがね ふたりの幸せ。もっと歌詞を見る
「eill」という名前にどんどん自分が染まっている感覚があるんです。

―― 歌ネットでは、『今日のうた』で多くの歌詞エッセイを執筆いただきありがとうございます。ご自身の気持ちを言葉にすることや伝えることは昔から得意だったのでしょうか。

もともと私はあまり本も読まないタイプだったので、言葉を綴るのは得意じゃなかったんです。作文は苦手だし、発表会では目立ちたくないし、授業中に先生に指されると、「無理です…」ってなっちゃう子でした。

でも小学生のとき、『ハイスクール・ミュージカル』が大好きで。その映画のなかで、言いたいことを歌詞としてノートに書き溜めているシーンがあるんですね。それにすごく憧れて、自分も真似っこして、よく何か文字をノートに書いていたのは覚えています。

―― いちばん最初に歌詞を書いたのはいつ頃ですか?

15歳のときに曲作りを始めたんですけど、作詞も同時期ですね。1作目は「虫の歌」っていう結構やばいバイブスの歌なので、2作目のお話をします(笑)。中学校のときに「ラブソング」って歌を書いたんです。でも当時、私は恋とか青春とか無縁で。制服デートなんてしたことなくて。だから、<私はラブソングを書かない>って歌詞の「ラブソング」を書きました。

―― 当時から、「私はこういうものを作っていきたい」という意思はありましたか?

photo_01です。

全然なかったです。ただ思ったことを歌にするか、語呂のよさか。私は陸上部だったんですけど、部活中に幅跳びの砂場で、友だちとずっと砂いじりをしていたんですよ(笑)。そのときに、「ちょっと歌でも作ってみよう」って曲作りを始めて、それがいい感じだったら、家に帰ってピアノでしっかり弾いてみる。それぐらいの感覚だったので、本当に日常のなかでの「水がうまい」とかそういうことを歌にしていましたね。

―― そこからどのように今のeillさんの音楽軸が形成されていったのでしょうか。

2018年にeillという名前で活動を始めたのですが、まずそれが自分の音楽にとっての大きな転機だった気がします。

―― 「eill(エイル)」は、北欧神話に登場する癒やしの女神「エイル」に由来しているんですよね。

はい。みんなで名前の案を出していくなかで、「いろんな音楽で人を癒す」という意味で、ピッタリなんじゃないかと決めました。実は「MAKUAKE」という曲でデビューしたときは、とくに何か言いたいことがあったわけでもなくて。多分、中学で曲を作っていたときと同じ感覚で、「自分の幕開けだから、「MAKUAKE」にしよう!私の幕開けだ!」って気持ちだけで。何も考えないで歌詞を書いていたんですよ。

でも本当に不思議なんですけど、そこから曲を書いていくにつれて、「音楽に救われたから、今度は自分が誰かを救いたい。癒したい」って気持ちに変わっていったというか。「eill」という名前にどんどん自分が染まっている感覚があるんです。

―― 自分の歌詞が、ちゃんと聴き手に届いた実感があった最初のタイミングというと?

それこそ「MAKUAKE」をリリースしたときですね。自分のことしか考えずに書いたのに、聴いてくださった方から本当にいろんなメッセージをいただいて。たとえば、「今いる会社を辞めて、新しいステップを踏み出せる一歩になりました」とか。そういう声をいただけることが人生で初めてで。

―― デビュー時からその衝撃と実感があったのですね。

生放送のラジオでコメントをいただいて、ビックリして泣いちゃったんですよ(笑)。今考えるとめっちゃ恥ずかしい。でもすごく嬉しかったのを覚えています。自分が発信した言葉を、誰かが受け取って、そのひとがまた違う素敵な人生を歩んでいくように連なっていく感覚。言葉の威力、音楽の威力を感じました。奇跡みたいだなって今でも曲を出すたびに思いますね。

―― また、「palette」の歌詞エッセイで、ご自身の音楽には「ジャンルレス」という言葉が纏わりつくと綴られていましたが、それはどんなところが苦しさになっていたのでしょうか。

最近はeillを聴いてくださるリスナーの方が増えてきて、「eillはいろんなタイプの曲を作るアーティストだ」ってわかってもらえつつあるから、かなり自由にできているんですけど、最初は、「ジャンルをひとつに絞りなさい」って多くの方に言われたんです。やっぱりひとつを極めるほうが強いから。

でも私自身も、同じ世代やもっと若い子たちも、きっともうひとつではなく、好きなものを選択しているはずで。Netflixにだって、いろんなアニメやドラマがあるし。もちろん音楽の聴き方もバラバラだし。そうやって育ってきちゃっているから、どうしようもないというか、「ひとつには絞れません!」って思うんです。だけど、それをやり通すためには、自分が頑張らないといけない部分が今でもたくさんあって。「何をやってもeillの音楽になるね」と言われつつ、「これもeillなのか!」って驚いてもらえたらなと思っています。

―― 幅広い楽曲が書けるからこそ、eillさんは多くの提供曲も手掛けていますよね。BE:FIRSTさんやジャニーズ WESTさんに楽曲を作るとき、やはりご自身の楽曲を作るときとは感覚が違いますか?

より丁寧に、自分事として考えて書くようにしていますね。フロントマンとして立っているからこそわかるんですけど、世に出ることって怖いことだし、歌は1曲出すと簡単に後戻りはできない。そのなかで本人が背負っている気持ちはすごくわかるし、自分だったら小手先で書かれた歌詞は絶対に歌いたくないから。

あと、男性アーティストの方に書くことが多いので、女性ファンの方々の気持ちはかなり考えます。ときにはTwitterでサーチして、そのアーティストのどんな部分にときめいているかをチェックしたり。そういうところも大切にしながら書いていますね。

―― アーティストによって、似合う言葉も変わりますもんね。

そうそう!「ここ絶対キュンキュンするじゃん!」みたいなフレーズとか。たとえば、ジャニーズWESTさんへの提供曲「ブルームーン」で、ラップっぽいパートに、<もうアホちゃうん?>ってセリフを入れさせていただいたんです。そこはあえて歌詞には表記していなくて、聴いたときに、「何!? 歌詞には書いてない! でも何回も聴きたくなる!」って“キュンッ!”ってなる。その“キュンッ!”は、アイドルでも関西弁でもない私が歌っても成立しないので、書いていてすごく楽しかったですね。

―― ちなみにタイアップ曲や提供曲じゃないとしたら、どんなときに曲を書きたくなりますか?

私はあんまりラブソングを書きたいという気持ちにならないんですよ。ノンタイアップで曲を書くのは大体、人生に悩んでいるときとか、ちょっと自分のなかの壁を越えたとき。とくに逆境を越え始めると、「あのつらかったことを歌にしたらよくない? プラスになるじゃん。よかったって思えるじゃん!」みたいなモードに変わってきて、歌詞にすることが多いですね。

―― 片っぽ」の歌詞エッセイでは、「曲がかけない私は、ただの抜け殻で、無意味だ。大嫌い。」とまで書かれていましたが、それぐらいeillさんにとって音楽の存在は大きいものなんですね。

そうですね。中学生のときって、「生き物って、なんのために生きているんだろう。自分ってなんで存在しているんだろう」とかよく考えるじゃないですか。当時、私もすごく不思議に思っていて、ずっと存在理由がわからなかったんです。だけど歌に出会ってから、「あ、自分というものは、歌があれば存在できるのかもしれない」と思えるようになったんですよね。

そこから、内気な性格もポジティブになっていったし、溜め込んでいた気持ちを外へ発信することで、自分自身が変わるようになっていった。だから本当に今でも、私から音楽がなくなったら、存在理由もなくなって、抜け殻になるんだろうなって思います。

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