―― 慎也さんの描く主人公には血が通っているというか、性格や言動がすごくリアルに伝わってきます。曲の主人公像はどのように作っていくのでしょうか。
タイアップのときは、その曲を聴いてくれるひととか、その作品の主人公になりきった気持ちで歌詞を書くことが多いですね。たとえば、4曲目「優しさに溢れた世界で」なんかは、かなり主人公像が明確で。『めざましどようび』のテーマソングだったので、まず『めざましテレビ』はどんなひとが観るかと考えて。すると、忙しいサラリーマンの方が浮かんできました。
かなり早く起きなきゃいけないし、毎朝しんどい。それでも、自分の奥さんや子ども、守りたいもの、大切なひとのために頑張っているんじゃないかな。頑張ろうと思えるんじゃないかな。そうやって、自分が主人公の<僕>になった気持ちで書いたんです。あと、朝早くから家事育児をしている方とか、そういうひとにも届いたらいいなと思いながら書きましたね。
―― では、2曲目「あぁ、もう。」のようなラブソングの場合はいかがですか?
この曲の場合は、<あぁ、浮ついて打つけた 小指すらも何故か愛しいよ まるで脳内麻痺したような>ってフレーズが最初にできて。「何に“浮つく”かなぁ…」と考えたら、やっぱり恋愛だなと。イテテテテ、でも、笑っちゃう。そういう感覚を表現したくて書きました。
そこからは同じように、片思いをしている<あたし>になり切って歌詞を書き進めていったかな。俺に片思いをしてくれている子の気持ちになって想像してみたり。逆に俺も片思いをすることがあるので、その感覚を思い出したり。実際、めちゃくちゃ言われた言葉もあります。
―― 言われた言葉というと。
<連絡しないと終わっちゃいそうで またあたしばっかり>ですね。あと俺は<思わせぶり>とかもよく言われるんですよ。自分では無自覚なんですけど、LINEしていて急に言われたり…。
―― 歌詞のとおり、「声が聞きたい」と言ってしまうとか…?
それは言わないです(笑)。これは逆に、思わせぶりな子に言われたことがある言葉ですね。向こうが飲んでいて、酔っぱらって電話をかけてくるとかね。そういえば、reGretGirlってバンドの平部ってやつも、酔ったら電話してくるクセがあるんですよ。失恋して、「慎ちゃん、聞いてや~」とか言って。なんか…いろいろと思い出しながら作っていった曲ですね。
―― 慎也さんが、アルバムのなかで、とくに「よく書けたな」と思うフレーズを教えてください。
1曲目「404. NOT FOR ME」は、<なぁ僕は君にとって最高に都合が良かったかい?>ですね。昔はこういう皮肉を歌詞に入れることはあまりなかったんですけど、この曲ではうまく書くことができたなと思いますね。
―― この曲タイトルは、ネットで存在しないページにアクセスしたときに表示される、『404 not found(404エラー)』に通じているのでしょうか。
そうそう。その『探しものが見つからない』という意味と、「NOT FOR ME」で『僕には関係ない』という意味、どちらもかけてつけました。この主人公は結構もう怒り混じりというか。<立ち尽くして 『くだらねえな』 って 笑えるほどどこがよかったんだ>とかもよく書けたなと思います。こうして改めて歌詞を読んでみると、必ず1曲ずつ「これよく書けたな」ってフレーズがありますね。
―― ぜひ、教えてください。
2曲目「あぁ、もう。」は、やっぱり<あぁ、浮ついて打つけた 小指すらも何故か愛しいよ まるで脳内麻痺したような 今しっかりしないと>のところ。実は少し韻を踏んでいるんです。あと<依存の創造主>も気に入っています。どんなワードにするか、これでちゃんと伝わるか、かなり考えましたね。
3曲目「君ト餃子」は、<包んで 焼いて 食べちゃいな>ですね。あと<頭に来るような事もまぁまぁ 酒のつまみにすれば良い>も好きかな。愚痴を酒の肴にするってよく言うじゃないですか。それを歌詞にうまく落とし込めたかなと思います。
4曲目「優しさに溢れた世界で」は、サビの<積み上げた一瞬はきっと 報われない事もさ、多分あるんだろうけど 踏み出した一歩は今日も 大切な誰かを思い浮かべていた>かな。自分だけがわかっていればいいというメッセージをしっかり伝えられた気がします。
5曲目「魔法にかけられて」では、理想の<君>を書きあげました。<高級な店じゃなくても 綺麗な夜景があっても 「ふたりじゃなきゃダメ。」>って、<君>が言ってくれる。でも<僕もそう分かっているけど 見栄っ張り 意地っ張りが 僕の悪い癖>。そんな自分のこともわかってくれていて<「大丈夫、大丈夫。」 いつも君は頷いて笑う>…っていう子が、いてくれたらよかったなぁ…って思って書きました(笑)。あと<痺れた右手そっと うなじ抜け出して>もうまく表現できたかなぁ。
6曲目「ノンフィクション」は、<SNSで知った友達の結婚 置いていかれてる様で焦ってしまう>とか、<どうでもいい事で笑いあった後に 急に寂しくなって 不安に駆られて毎晩アルコールを浴びる習慣 今がリアルなんかフィクションなんか わからなくなってなんかもう。>とか、リアルな素の自分が出ているフレーズばかりだなと思います。
そして7曲目「Be yourself」は、冒頭の「それなりに生きるくらいなら、かっこよく死にたい。」って一行から書き始めた曲なので、ここが気に入っています。
あと<Don't let it get you down>って英語は、香取慎吾さんの『ベラベラブック』に書いてあったフレーズを思い出して。中学のときに読んでいた、「こういうときはこう言おう」みたいな英語が書いてある細長い青色の本があって、そこに書いてあったんです。<Don't let it get you down>で「くよくよすんなよ」みたいな。それをふと思い出して書きましたね。
―― 慎也さんにとって、歌詞とはどんな存在のものですか?
自分の感情を表現できる唯一の場所。月並みに言ったらそんな感じかなぁ。やっぱり自分の気持ちを言えないこともいっぱいあるし。秘密とかじゃなくて、あんまり知られたくない自分の黒い部分とか、思い出とか。aikoさんは、「歌詞は大きい日記みたいな感じ」って言っていたんですけど、それに近くて。歌詞は、自分の生涯をまとめたあらすじみたいなものだと思いますね。
―― 歌詞面で影響を受けたアーティストというと?
やっぱりaikoさんと市川卓司さんです。あと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチ(後藤正文)さん。清水依与吏さんもそうですね。とくにback numberの「春を歌にして」の歌詞がすごく好きで。聴いていた当時、高校生だったんですけど、<並木道のやわらかい風はあなたの手のひらみたいに>って冒頭からすごいなって感動したのを覚えています。
―― ありがとうございました!最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。
子ども目線で母親を見たときの歌。今回「優しさに溢れた世界で」は、サラリーマンのお父さん目線で書いたんですけど、今度は子ども目線でお母さんを見ているような歌を書いてみたいなと。あと、もっとコミカルな歌を作りたいですね。<サーフィンしたいけど、泳げない~♪>みたいな。
―― (笑)。
<けど泳ぎたいからスイミングスクール行きたい~♪ けどスイミングスクール行くには体がたるんでいるから まずジムに行かないと~♪>って、サーフィンからジムまでの物語が繋がっているみたいな(笑)。でも最後には<人生は無駄にできないから>って特大のメッセージを込めて。そういう脱力系のおもしろい歌詞を書いてみたいですね。