あおい:私は昔、シンガーソングライターだけやっていた時期に、他者から言われてグサッと来た言葉があって。「この曲の主人公がかわいくない」って。歌詞としては、「私はもっとかわいいはずだから大丈夫!」って努力しているようなかわいい内容のはずだったんですけど。それが逆に、「かわいくないものを見下しているように感じさせる。努力しているかもしれないけれど、愛される主人公じゃないよ」と言われて。

彼方MEG.ME:へえー!

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あおい:その言葉に対して自分でも、「あ、わかる」と思ってしまったんです。だから、曲によっていろんな価値観を持った主人公がいるけれど、歌うひとも聴くひとも最終的にその主人公のことを「かわいい人間だな」と思えるような歌にしようと。そこは最終的に必ずチェックするポイントかもしれません。

彼方:傷つくけれど、そこを見抜いたひとすごいね。

― 主人公のお話でいうと、以前“男性作詞家3人”の座談会を行なった際、「“可愛い女性像”は技術で書けるようになったけれど、“カッコいい女性像”は書きにくい」という話題が出まして。

彼方:それはそう! 彼らは女性じゃないんだもの。

MEG.ME:異性のことってどうしても客観的にしか見られないから。さらに女性はホルモンとか、身体の変化によって左右される部分も大きくて、そこを男性は想像するしかないから、より難しいんじゃないかな。私たちは自分のことだから、“カッコいいときの私”というのも動きが見えるじゃないですか。

― また、男性作詞家の方々は「女々しい歌詞」のほうが得意だそうなんです。

彼方:えー!? 自分も女々しいからでしょ(笑)!

MEG.ME:あと、サクセスストーリーが好きなんだ。

彼方:少年漫画の構成ですね。

MEG.ME:だから、男性作詞家さんの曲では、1番の歌詞で“くよくよ・めそめそ”していることが多い。なかなかうまくいかない自分というか。でも女性作詞家で、うじうじ状態を書いているひとって少なくないですか? チラッとネガティブが見える程度で、本質あまりそこには触れてない気がして。

あおい:たしかに。

彼方:うん、Dメロとかでしか出てこない。これマニアックな話だけど、おもしろいね。

MEG.ME:今度は男性作詞家さんも入れて、VSみたいな形で話したいな(笑)。

― みなさんが“書きにくい主人公”ってありますか?

彼方:救いようのないくらいネガティブな主人公。

― 先ほど、ご自身のルールでも「ポジティブで在ること」とおっしゃっていましたし。

彼方:そう。多分、この仕事をやり続けて、自分を表現している時点で、ポジティブで強いひとが多いと勝手に思っていて。そうじゃないとやっていけないから。くじけそうなこともいっぱいあるし。だからこそ、引っ込み思案とか、前に踏み出せないとか、道を切り開けないタイプの主人公を書くのは苦手かも。共感できないから。

MEG.ME:わかる。あと、意気地のない主人公やずるい主人公も苦手。自分が、「そこで逃げる? どんどん立ち向かっていこうよ!」というタイプだから。ネガティブな歌を否定するわけではなく、自分の作品として出すときに、「みなさん、この歌や主人公を楽しい気持ちで聴いてください」と思えないものは、難しいなぁ。

あおい:ネガティブな歌は、シンガーソングライターの場合なら、自分と独白として聴いてもらえるからこそ出せるところもあって。それを誰かに歌ってもらうとなると、たしかに難しいかもしれません。あと私はセクシーな主人公も苦手で。

MEG.ME:あー、難しいねぇ。

あおい:生々しい表現とか、塩梅がわからない。書きながら自分が、「無理無理!」ってなってしまうんですよ。しかもそういう楽曲を提供するお相手が、まだ幼さも残っているようなアイドルの方だった場合、なおさら、「これは違うんじゃないか…」と葛藤する部分が大きくて。でも、書かないといけない。でも、セクシーとは…、って悩むことが多いですね。

MEG.ME:すごく工夫しますよね。たとえば、「背伸びして色気を出しているんだよ」という表現もどこかに入れて、幼さを忍ばせたりして。なかなかドストレートには書けないなぁ。

彼方:セクシーな歌詞を求められることってありますか?

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MEG.ME:たまにあるんですよ。たとえば、「私は危険な女なのよ」みたいなニュアンスの歌だったり。ちょっと危険な恋愛の雰囲気を求められたり。そういう場合、私もあおいちゃんと同じく、「おぉ…どうしよう…」となりますね。自分の脳内ストックから、一生懸命「危険な恋愛」を検索します(笑)。

彼方:私、そのオーダー来たことないかも。もう「中村彼方は違う」って思われているのかもしれない(笑)。自分が書けるかどうかも、ちょっと想像がつかないな。

MEG.ME:彼方先生はできる。ちょっと文学的な書き方をすると思う。

あおい:上手な抽象化ができそうですよね。

MEG.ME:そうそう。花とか香りになぞらえて、具体的でなく、セクシーな世界観を表現できそう。

彼方:あ、たしかにそういう逃げ方をするかも。すごい、おふたりのほうが私より私をわかっている(笑)。

中村彼方からのQ

オンオフ(作詞脳)の切り替え方はありますか?
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彼方:とくにまだ子どもがいなかった頃、生活のすべてが歌詞のアイデア探しになってしまっていたんですよ。寝ても覚めても。もはや考えすぎて眠れない、とか。夢の中でも作詞をしている、とか。それがツラくて。みなさんはどうしているのかなって。

あおい:私は、音楽のことだけをバーッと考える時間と、その時々でハマっている別のもののことをバーッと考える時間とがあって。だから、常に何かに対してはオンなんですけど、その対象がパッ、パッ、と変わるんです。

彼方:じゃあ、オンオフを切り替える感覚というより、オンの状態で切り替えていくんだ。

― また、あおいさんからいただいたテーマに【作詞はどこで行っていますか?】という問いもありました。作詞をする場所でもマインドは変わってくるのでしょうか。

あおい:そうなんです。私は狩りの民族みたいに移動しながら作詞をします(笑)。まずは部屋で書いて、公園に行って、カフェに行って、ファミレスに行って…。その場所ごとに集中力をまたグッと上げる、ということを繰り返しながら書き上げていくことが多くて。意識的にオンのモードにし続けている感覚なんですよ。

MEG.ME:私の場合、ほとんど家で書く上に、ずっとオンなんですよね。ただ、あおいちゃんと少し似ているんですけど、仕事内容を変えることによって切り替えているかもしれません。音楽はずっとやっている状態だけれど、作曲する時間、アレンジする時間、作詞する時間、ってマインドが変わる。

彼方:ああ、そうかぁ。私は子どもが生まれてから今度は、オンのままじゃいられない、無理やりオフにさせられる瞬間が増えて。それもジレンマなんです 。「ああ、今考えていたのに!」って言葉が飛んでいくみたいな。だから、自分でオンオフをコントロールできればいいのにと思うんですけど、これはきっと無理ですね。

MEG.ME:本当に子どもって突然、横からパソコンをガチャガチャー!ってしてきて、「あー消えた! 私の5行を返して!」みたいなことがよくありますよね。今はそういう強制オンオフしかないのかも。

彼方:自分のタイミングではないけど、以前よりもちゃんとオンオフができているのはたしかですね。

MEG.ME:私もさっきずっとオンだと言いましたけれど、彼方先生のお話を伺って、「いや、強制的に切り替わっているな」と思いました。おむつを替えている時間にメロディーのことなんかまったく考えてないもん(笑)。

彼方:仕事とは関係ない趣味で、スイッチが切り替わることはある?

あおい:最近は洗車に夢中で。

MEG.ME:それ趣味なの(笑)!?

あおい:洗車の解説をしているYouTubeチャンネルっていっぱいあるんですよ。そういうのを観て、洗車グッズを買いに行って、「この締め切りを乗り越えたら洗車に行こう!」ってモチベーションを上げています(笑)。

― 洗車のどんなところに惹かれるのですか?

あおい:もともと野球とか、男性的な趣味のほうが多くて。大きな機械を前に、それを愛でているということ自体が好きなんですよね。もっと機械に詳しければ、スタジオでの機材集めとかにハマっていたと思うんですけど、私には洗車ぐらいがちょうどよくて。ただ、今だけだと思います。都度、熱烈なマイブームがやってくる。ちょっと前はレゴに夢中でしたし。とにかく何かをいじっていることが好きなんだと思います。

MEG.ME:私はNetflixが大好きで、週に1日ぐらいは朝の5時、6時ぐらいまでドラマ一気見とかしちゃうんですよ。あと、子どもが生まれてからは、遊び場探し。土日、遊びに行くところをネットで探すのが楽しい。大きくて柔らかいブロック を積んで家を作れる場所とか、トランポリンがある場所とか、身体を使った遊びを一緒にできるところを探しまくっていますね。

あおい:いいですねぇ。

MEG.ME:だけど、大体の土日は体調を崩して病院に行くのが現実です(笑)。

彼方:私は昔からゲームが大好きなので、モンハンとかシリーズものの新作が出たら、すぐ買って遊びますね。あと、最近はパーソナルジムに通い始めて。もともとポジティブだったんですけど、さらにポジティブになっています。「あと1回で15回だ!」とか頑張るから、自己肯定感が爆上がりする。「人生、やればできる!」みたいな気持ちになる。今は腹筋を割るのが目標です。

あおい:腹筋が割れている作詞家カッコいいなぁ。

MEG.ME:そういう達成感を得られるものはいいですね。

― 最後に、この座談会は作詞家になりたい方も読んでいると思うのでひと言、アドバイスをお願いします。

彼方:私は「殻を破れ」かな。いちばん最初は、自分のなかにあるものをさらけ出すことって、恥ずかしいと思います。でもその一歩を踏み出さないと、伝わらないし、見つけてもらえないから。

MEG.ME:売れるってことは、何万人が聴くってことだから、まずは最初の一歩をね。

― ちなみにみなさんが、いちばん最初の作品を見せた相手って覚えていますか?

あおい:私、中学生の頃に音楽活動を始めて、自分のホームページを作ったんですよ。そこに自作の歌詞も載せていたんですけど、それがクラスメイトの男子に見つかって。読み上げられたところがスタートです(笑)。

彼方:わー! 恥ずかしいけど、殻は破れるね(笑)。私は最初、誰に見てもらったかな…。多分、親友だ。その子も歌が好きだったから。あ、一緒に歌った! で、ハモってくれて。

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MEG.ME:いいですねぇ!

あおい:青春!

彼方:そう考えてみたらエモいなぁ。それを仕事にしているわけだし。今、バーッと思い出しました。

MEG.ME:私は歌詞を第三者に見せたことはないなぁ。コンペの提出相手か、一緒に曲を作ったバンドの仲間か。

― 子どもの頃に書いていたとおっしゃっていたポエムなどはいかがですか?

MEG.ME:あ、あれは先生との連絡ノートに書いていましたね。それがある日に学級日誌に載せられていて(笑)。そう考えると、あおいちゃんと同じで、その経験が最初の殻破りだったのかもしれない。

― では、あおいさん、MEG.MEさんもアドバイスをお願いします。

あおい:作詞家になりたいと思っている方は、日本語をいかに綺麗に使うかとか、いかに素晴らしい表現をするかとか、そこにフォーカスしていることが多いかもしれません。でも、私たちが実際にやっているのは、音に言葉を乗せるという仕事で。そういう意味では、たとえば、既存曲のメロディーに、自分の言葉を乗せてみるというトレーニングをしてみるのも、ひとつの近道なんじゃないかなと思いますね。

MEG.ME:うん、替え歌ってかなりトレーニングになりますよね。私からは、「いったん完成させてください」とお伝えしたいです。サビだけ、Aメロだけ、みたいなのは多分、達成感に繋がらない。まずは1曲、最後までやりきる。そうしたら、次がありますから。ひとつ完成させることで、また自分の次のステップが見えてくる。そうやってひとつずつレベルを上げていくことが大事だなと思います。