日食なつこ
煙と水晶
2026年4月8日に“日食なつこ”が新曲「煙と水晶」をリリースしました。煙のようにほどける一瞬と、水晶のように沈黙する永遠。微細な揺らぎ、ゆらめきを、日食なつこらしい春の匂いを纏って描く最新作。アレンジャーにガリバー鈴木を迎え、Drums 城戸紘志、 Contrabass ガリバー鈴木の芽吹きを感じさせる音が、楽曲に暖かく寄り添います。今日のうたでは、そんな“日食なつこ”による歌詞エッセイをお届けいたします。
駅ビルに入っているような大きな商業施設に出かけると、たまに降りるフロアを間違ってプリクラやゲームコーナーがひしめくフロアに迷い出ることがあります。
そういう場所で目にするのはたいてい制服姿か、あるいは大人のような装いをしてはいるものの一目でそれと分かる、青少年たちです。
同じくらいの歳のころ、そういった場所で「ただ遊ぶためだけに遊ぶ」ということが自分はどうしてもできない子どもだったなぁと、そのたびに思い返します。
とりわけ苦手だったのはプリクラ。小学生高学年になるくらいから、誰かとどこかへ出かけるとなれば必ずそのイベントはついて回りました。
プリクラは「ただ遊ぶためだけに遊ぶ」を完璧に体現した娯楽です。手を取り合い、肩を寄せ合い、あの小さな空間でポーズを取って、フィルターをかけ、お絵かきをして、プリントされるのを待って、切り分けて…。
勉強も遊びも何かを始めるなら何かしら目標や意義があるところまでがセット、というお堅い思想の椅子にきっちり座っていた当時の自分にとって、これは何が目的なのか?どこに喜びを見出せばいいのか?どんな反応をすれば楽しんでいることになるのか?それが一切見えてこないプリクラの作業工程は、大袈裟ですが苦役のようですらありました。
一緒に撮ろう、なんで逃げるの、と腕を取ろうとする相手をかわし、向こうで待ってるから、などと言い訳をして頑として私はプリクラ機に近づこうとはしませんでした。怪訝そうな表情をこちらに向けた後、すんなりとあの箱に吸い込まれてく友人や先輩たちが、その時だけは遠い星の住人に見えました。
どこかのテーブルに座ってひとり堂々と「私は望んでここで待ってるだけです」という空気が出ているようにふるまう時間は、とてつもなくみじめで、卑屈なものだったことを覚えています。
迷い方すら美しいあの子のように 存在しているだけで許される側でいたかった
35歳も目前になる頃に書き上げた最新曲「煙と水晶」の一節です。
“迷い方すら美しいあの子”は私の人生において何人も思い浮かびますが、プリクラ機に手を取り合って入っていける側だった人たちも、もれなくそこに該当しています。
私はなれませんでした。
あの箱の中に入れなかった自分は、存在しているだけでは許されない側なのだろうかと、青く苦く柔らかい草を噛み締めるような思いで生きています。
<日食なつこ>
◆紹介曲「 煙と水晶 」 作詞:日食なつこ 作曲:日食なつこ