今月のスポットライトは、大きなサングラスをかけ、キーボードを弾きながらパワフルに歌うボーカル・TOMの姿が印象的だったバンド、TOM☆CATの「ふられ気分でRock'n' Roll」を取り上げます。
1984年10月に開かれた、ヤマハ主催の「第28回ポピュラーソングコンテスト」。その本選に出場し「ふられ気分でRock'n' Roll」でグランプリを獲得したバンドがTOM☆CATだった。さらにその3週間後、日本武道館で行われた同じくヤマハ主催の「第15回世界歌謡祭」に出場し、世界各国からアーティストが出場した中、ここでもグランプリを獲得。「ふられ気分でRock'n' Roll」は11月にシングルとして発売され、これがデビュー曲となる。
ザ・ベストテンには1985年1月24日にスポットライトのコーナーに初登場。2月14日に6位で初ランクインした。
ボーカル&キーボードのTOMは、顔が半分隠れそうなほど大きなサングラスをかけ、髪はショートカット、ボーイッシュな格好。サングラスは、彼女のシャイな性格の表れだったらしい。声はどこか少年のような部分も感じさせ、小柄な体からよく通るパワフルな声を聴かせていた。TOMが弾いていたのは、83年に発売されてからまだ間もなかったシンセサイザーの名機・ヤマハDX7。それまでグランドピアノや、ヤマハCPシリーズなどの電子ピアノを弾きながら歌うシンガーはいても、シンセサイザーを弾きながら歌うスタイルを歌番組で披露したのは、おそらく彼女が初めてだったのではないだろうか。
「ふられ気分でRock'n' Roll」は、早口言葉でたたみ掛け続けるような、歌い出しの長いフレーズが印象的。それを息継ぎせず一気に歌うTOMの息の長さが驚異的だと話題になった。そこに目をつけたザ・ベストテンが、番組出演時に用意したステージがまたユニーク。研究所のような謎のセットの中、演奏するTOM☆CATメンバーの周りに、なぜか袴姿や白衣の研究者の扮装をした男たちが登場。彼らが水の入った透明な洗面器に顔を付けて息を止め、TOMの歌と同じタイミングで顔を上げてブハーッと息継ぎをする、というものであった。TOMはよく笑わずに最後まで歌い切ったものである。同曲は最高3位を記録、連続7週ランクイン。年間ランキングでは20位となった。
歌詞は、ふられたばかりの女の子が強がっている気持ちを歌ったもので、悲しむばかりでなく、自分を奮い立たせようとする前向きな姿勢が描かれている。そんな陽気でへこたれない女性像は、その後のTOMの書く作品中で幾度も登場しており、広く女性リスナーの共感を得た。TOMはその才能で他の歌手にも楽曲を提供しており、「天使の休息」(92年)のヒットで知られる久松史奈がシングルとして発売した「LADY BLUE」「FOR MY FRIEND」等はもともとTOM☆CATの曲であり、久松がカバーした形だった。
若いアマチュアミュージシャンに門戸を開き、競わせることで数多くのアーティストを輩出したポプコンだが、TOM☆CATが歌番組を賑わせた翌年、86年9月に開催された第32回を最後に終了。「ふられ気分でRock'n' Roll」はそこから生まれた最後のヒット曲だったのだ。
TOM☆CATは、いわゆる「一発屋」という捉え方をされることが多く、TOM自身も自虐的にそう発言していたようだ。しかし、次作「サマータイムグラフィティ」は85年夏のJAL沖縄キャンペーンソングとなって爽やかな曲調でスマッシュヒットしている。さらに忘れてはいけないのが、週刊少年ジャンプ連載の人気コミックをアニメ化したシリーズ「北斗の拳2」の主題歌となった「TOUGH BOY」(87年)である。ワイルドな歌詞、パワフルなボーカルが世紀末を舞台にした作品世界にマッチし、「北斗の拳」の人気とともに、アニソンの名曲の一つとして今日に至るまで根強く愛されている。多くのアーティストにカバーされている他、日本のアニメが好きな海外のファンの間でも広く知られている。
バンドが解散した後も、TOMは仕事の傍ら音楽活動を続け、2017年現在でも、不定期にライブハウスで歌っている。アニソンイベントに出演して「TOUGH BOY」を歌ってくれる日は来るだろうか。