辛島美登里 スペシャル インタビュー!

辛島美登里 スペシャル インタビュー!「一番、心地よい形だと思ってます…」10年ぶり 16枚目のオリジナル・アルバム『Coral』が 2024年3月6日に発売! ハイレゾ配信チャート 1位! 心地良い、ずっと聴いていたくなる、良質な大人のポップス・アルバム! デビュー前のヒストリーも!

 


インタビューの最後に、直筆サイン色紙 の 読者プレゼントあり!

 



Karashima  Midori
辛島 美登里

16th Album『 Coral(コーラル)



歌い継がれるヒット曲『サイレント・イヴ』で知られるシンガーソングライター!
★ 1989年にシングル『時間旅行』でデビューして 35周年!
★ 透明感のあるクリスタルのような歌声が魅力!

★ 10年ぶり 16枚目のオリジナル・アルバム『Coral』が 2024年3月6日に発売!
★ 発売直後に ハイレゾ配信チャート「邦楽アルバムランキング」で 1位!
★ 心地良い、ずっと聴いていたくなる、良質な大人のポップス・アルバム!
★ 槇原敬之の書き下ろしや、永井真理子に提供した人気曲のデュエットも収録!

★ 2024年4月24日には、冨田恵一プロデュース、25周年アルバムが LP盤で発売!

★ デビュー前、歌手になりたいと思っていなかった…!?
★「一番、心地よい形だと思ってます…」  

 

 

 

辛島美登里『Favorite Phrase』(Audio)
 
 
辛島美登里 & 永井真理子『Keep On “Keeping On”』 (Duet Version)(Audio)
 
 
辛島美登里『忘れないで』(Audio)
 
 
 

 

 
 
 
 

■ アルバム CD リリース 情報
 
 
 
辛島美登里 『Coral』
アルバム CD(SHM-CD)/ Digital
2024年 3月6日 発売
UICZ-4664
¥3,300
USM JAPAN / UNIVERSAL MUSIC
 
<収録曲>
01 Favorite Phrase (作詞・作曲:槇原敬之 with 辛島美登里)
02 人魚の恋~風になって~ (作詞・作曲:辛島美登里)
03 Keep On“Keeping On”  (辛島美登里&永井真理子)(作詞:永野椎菜 / 作曲:辛島美登里)
04 3months ~止まった地球(ほし)~ (作詞・作曲:辛島美登里)
05 逢いたくて (作詞・作曲:辛島美登里)
06 シロツメクサ(辛島美登里&永井真理子) (作詞・作曲:辛島美登里)
07 エスポワール (作詞・作曲:辛島美登里)
08 卒業記念日 (作詞:辛島美登里 / 作曲:中崎英也)
09 日常 (作詞・作曲:辛島美登里)
10 忘れないで (作詞・作曲:辛島美登里)
11 最後の手紙(Studio Live Version)(作詞・作曲:辛島美登里 / 編曲:辛島美登里)
 
サウンド・プロデュース / 全編曲:十川ともじ
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

アナログ LP盤 リリース情報

 

 



辛島美登里『colorful』【2024 LP EDITION】
アナログ LP(全8曲)
2024年 4月24日 発売
UPJY-9423
¥4,730
USM JAPAN / UNIVERSAL MUSIC

※ オリジナル CD 発売日:2014年 11月26日

<収録曲>

Side A
01. サイレント・イヴ(colorful version) 
02. つよく、つよく…
03. 蛍 
04. シアワセノイロ ~家族になりたい~

Side-B
01. 毒
02. ハロウィン過ぎたら 
03. あなたは知らない (colorful version) 
04. 手をつなごう~ひとりぼっちじゃない~ (colorful version)

プロデュース:冨田恵一

 

 

辛島美登里『colorful』(オリジナル CD)
CD(全11曲) / Digital
2014年 11月26日 発売
UICZ-4313
¥3,056
USM JAPAN / UNIVERSAL MUSIC

<CD 収録曲>
01 シアワセノイロ ~家族になりたい~
02 サイレント・イヴ(colorful version)
03 つよく、つよく…
04 名前のない空
05 毒
06 あなたは知らない
07 蛍
08 ハロウィン過ぎたら
09 あなたと
10 手をつなごう~ひとりぼっちじゃない~(colorful version)
11 一歩一歩ずつ ~Go to hometown~

プロデュース:冨田恵一

 

 

 

辛島美登里 アルバム『colorful』YouTube 全曲再生リスト(Audio)

アルバムの歌詞を見る


辛島美登里 ユニバーサルミュージック

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辛島美登里さん&永井真理子さんよりコメント到着!【辛島美登里 35th Concert Tour 2024〜Coral 35〜】

 

 

 

 

コンサート 情報



辛島美登里 35th Concert Tour 2024 〜Coral 35〜

 

【愛知】

2024年 3月30日(土)開場 16:30 / 開演 17:00
愛知県 名古屋市「Niterra 日本特殊陶業市民会館」ビレッジホール
詳細/チケット サンデーフォークプロモーション

 

【兵庫】

2024年 4月13日(土) 開場 16:30 / 開演 17:00
兵庫県 西宮市「兵庫県立芸術文化センター」阪急中ホール
詳細/チケット キョードー大阪

 

【東京】

2024年 4月27日(土)開場 16:30 / 開演 17:00
東京都 品川区「きゅりあん」大ホール
詳細/チケット キャピタルヴィレッジ



辛島美登里 コンサート情報

 

 



 


■ 辛島美登里 アルバム『Coral』スペシャル インタビュー!



 

 

 「♪なぜ 大事な夜に あなたは いないの……」

 

 ひとりで過ごす女性の姿が、映像として鮮やかに浮かび上がり、その微妙な心の動きと心情が伝わってきて、切なくさせられるヒット曲、『サイレント・イヴ』で知られるシンガーソングライターの 辛島美登里。

 

 去年、亡くなった KAN の『愛は勝つ』もそうだが、まさにマスターピースとも言えるような、大ヒットし、時代を超えて歌い継がれているような傑作が 1曲あると、それらがあまりに有名なために、そればかりが注目されてしまうが、KAN にも、辛島美登里 にも、ほかにもたくさん名曲がある。

 

 辛島美登里 なら、『サイレント・イヴ』(1990年)をはじめ、『あなたは知らない』(1992年)、『夕映え』(1992年)、『愛すること』(1995年)、『あなたの愛になりたい』(1996年)などのヒットした王道ピアノ・バラード曲だけでなく、テレビアニメ『YAWARA!』のエンディングテーマ『笑顔を探して』(1990年)や、TBS系テレビ番組『地球ZIG ZAG』の主題歌『夢の中で 〜Graduation〜』、NHK総合テレビ『夢用絵の具』の主題歌『虹の地球』(1997年)など、メジャー調アップテンポの名曲もたくさんある。

 

 先日、2024年 3月6日に発売された、35周年記念、10年ぶりとなる通算 16枚目のオリジナル・アルバム『Coral』(コーラル)も、ボーナストラックを含め全11曲、いい曲ばかりが収録されていて、実に心地の良い、ずっと聴いていたくなる、良質な大人のポップス・アルバムになっている。

 

 実際、ある「ハイレゾ音源」での配信チャートでは、「邦楽 アルバム ランキング」で、J-POP で世界的な人気の「YOASOBI」を抑えて 1位になっている。

 

 最新アルバム『Coral』では、同じくシンガーソングライターの 槇原敬之 や、ヒット曲を数多く手がけた作・編曲家の 中崎英也 が楽曲提供していたり、辛島美登里 が 永井真理子 に楽曲提供し、アルバム曲だったにも関わらず 永井真理子 の代表曲にもなっている『Keep On "Keeping On"』(1989年)を、永井真理子 とのデュエットで収録したりと、新しい試みもあり、それらが、アルバムに、より深みを持たせている。

 

 そして、デビューから 35年が経っても、その代名詞でもある歌声は変わらない。クリスタルのような透明感のある上品な歌声が印象的だが、同時に、やわらかく、あたたかく、おしつけがましくなく、耳で聴いてちゃんと言葉が伝わってくる。

 

 なにより、辛島美登里 が作る歌は、本当によくできている。その、洗練されていて、無理のないメロディックで綺麗な耳に残るメロディもさることながら、歌詞が見事だと思う。

 

 本人は、「歌うことも苦手だし、詞を書くことも苦手」とは言うが、洗練された知的な言葉のチョイスには、非凡なセンスを感じる。キャッチーな言葉で、「そうだよな〜」「そうだよね〜」と感じるような「真理」を表現したり、書かれていない裏側の心情や心の動きを描くのがとてもうまい。天才的だと思ってしまうくらいだ。

 

 たとえば、『サイレント・イヴ』では、「♪"ともだち" っていうルールは とても難しいゲームね」、「♪本当は 誰もが やさしくなりたい  それでも 天使に人はなれないから」、「♪移りゆく季節が ページをめくるわ」など、うなってしまうような見事な表現が多いが、なにより、サビの「♪さよならを 決めたことは けっして あなたのためじゃない」という、そのフレーズが全てだと思う。

 

 なぜなら、それは、「そう思いたい自分がいる」ということで、本当にそう思っていたら、そんなことは言わない。もちろん、聴いている人は、そういうふうに頭の中で言語化はされないだろうが、そういう「言葉の裏側にある気持ち」を無意識に感じているから、切なさが伝わって、感動させられるのだろう。

 

 34年前に発売された『サイレント・イヴ』を、最近、知って好きになったという若者も少なくないようだが、そういう若者にも響く普遍性も持っている。

   

 そういう見事な歌詞が、今回のアルバムにも詰まっている。

 

 一般的に、辛島美登里 は、エレガントで上品なイメージだと思うが、実際も、その通りの人だ。加えて、フレンドリーで、明るく、楽しい人だ。そして、イメージとは違って、ちょっと天然なところがあったり、時には毒も吐くから、おもしろい。魅力的な人だ。

 



<もくじ>

1 35周年記念、10年ぶりとなる最新オリジナル・アルバム『Coral』

  〜「本当に肩のチカラを抜いてっていう…」〜

 

2 槇原敬之が提供した『Favorite Phrase』

  〜「今回、意を決してお願いしました…」〜

 

3 永井真理子への提供曲『Keep On“Keeping On”』をデュエット

  〜「新鮮な驚きでした…」〜

 

4 永井真理子とのデュエット用に書き下ろした『シロツメクサ』

  〜「それぐらいの距離が心地いい人も…」〜

 

5 ピアノ弾き語りで、スタジオライブ録音した『最後の手紙』

  〜「そこのね、見極めが難しいですよね…」〜

 

6 言葉のチョイスが秀逸な『卒業記念日』

  〜「「卒業記念目」って言葉から、あと全部を作りました…」〜

 

7 真骨頂のバラード『忘れないで』 

  〜「なにかメッセージをしたいって気持ちが…」〜

 

8 歌手になりたいと思ったことは、一度もなかった 

  〜「一番、心地よい形だと思ってます…」〜

 

9 今の時代、いろんな聴かれ方があっていい

  〜「面白いなと実は思っています…」〜



 

 

1 35周年記念、10年ぶりとなる最新オリジナル・アルバム『Coral』 〜「本当に肩のチカラを抜いてっていう…」〜

 

 

ーー 2024年 3月6日に発売された、35周年記念、10年ぶりとなる通算 16枚目のオリジナル・アルバム『Coral』(コーラル)は、ボーナストラックを含め全11曲、いい曲ばかりが収録されていて、実に心地の良い、ずっと聴いていたくなる、良質な大人のポップス・アルバムだ。

 

ーー 前作となる 2014年のオリジナル・アルバム『colorful』(カラフル)は、自身も「冨田ラボ」としてアーティスト活動をしながら、MISIA、中島美嘉、松任谷由実、平井堅 らを手がけたことでも知られる作・編曲家の 冨田恵一 のプロデュースによるもの。冨田恵一 らしい、おしゃれで、洗練されたサウンドで、新しい 辛島美登里 を感じさせた。

 

ーー しかし、今作、『Coral』では、『colorful』とは逆に、余計なものを削ぎ落としたアレンジで、辛島美登里 の「本来の魅力」や「らしさ」がシンプルに表現されていて、原点に戻ったようにも感じる。比較的、メジャー・キーの曲が多かったり、高い音で張る声が聴けたりするのも印象的だ。

 

辛島: ありがとうございます。たしかに、そうですね。今回は、35年目なので、今までだと、「自分で詞を書いて、自分で曲を書いて、自分で歌う」っていうことにも、わりと「決め打ち」っていうか、それをずっと貫いてきたところがあったんですけれど、今回は、そういう思いよりは、35年 経って、「今まで一緒に仕事したかったな〜」とか、「一緒に歌いたかったな〜」とかっていう思いに素直に向き合いたいなと思ったので、それで、なんか、自分の自作の曲とかにもこだわらずに、すごく好きだった槇原(敬之)さんにお声がけして「曲いただけたら……」とか、永井真理子ちゃん(とのデュエット)もそうですけど、「一緒の舞台に立てたら……」みたいな気持ちでレコーディングしたりとかっていうことを、本当に肩のチカラを抜いてっていう感じで……、まあ、作るのは大変でしたけれども……、レコーディングに挑んだっていう感じでした。

 

ーー 2014年発売の 15枚目のオリジナル・アルバム『colorful』以降、2017年発売のカバー・アルバムが『cashmere』、2019年発売の 30周年・アニバーサリー・ベスト・アルバムが『Carnation』、そして、コンサート会場とオフィシャルネットショップ「Karashimaya」限定で販売されたベスト・アルバムが『Cherry blossoms』と、いずれも、アルバム・タイトルには、「C」で始まるタイトルが付けられていた。

 

ーー そこで、今回も、アルバム・タイトルとして「C」で始まる言葉を探していて『Coral』となった。『Coral』は、日本語では「珊瑚」の意味で、「サンゴ」=「35」という語呂合わせで、「35周年」の意味も含んでいる。

 

辛島: そうですね。別に「C」にこだわったわけではないんですけど……、何となく、『colorful』からずっと

「C」だったので、なんかそんなことがあって……(笑)。で、あの、デビュー作が『Gently』(1st Album、1989年)だったんですけど、そこから、『Good Afternoon』(2nd Album、1990年)、『GREEN』(3rd Album 1991年)って、ずっと「G」で続いてたりとか……(笑)。

 

辛島: で、もしできれば、「C でなんかないかな〜」って言ったときに、ちょうど『Coral』っていうのが思いついて、「珊瑚(サンゴ = 35)だし、35 だから、ちょっと良くない?」って言って、いちおう「仮」にしてたんですね。で、仮でタイトルをつけて、レコーディングをしてたんですけど、別にそれを超える案も出てこなかったので……(笑)、「じゃあ、これにしようか」っていうぐらいな感じです、いつも……、はい。

 

ーー 今作では、サウンド・プロデュースと、アルバム全曲の編曲を、「CHAGE and ASKA」の『SAY YES』や『YAH YAH YAH』、岡本真夜『TOMORROW』、倖田來未『愛のうた』などのアレンジで知られる作・編曲家の 十川ともじ(十川知司)(そがわ ともじ)が担当した。

 

辛島: はい、アレンジは、今回、全曲、十川(ともじ)さんがしてくださって、プロデュースもしてくれたんですけども、彼は……、Chage(チャゲ)さんとか、他の方をやってるときには、本当に男っぽいものをされるんですけど、私には、わりとカラフルで、かわいらしい音とかをふんだんに入れてくださるので、そこはすごく好きですね。

 

ーー シンプルだが、効果的に音が使われている。前作のアルバム『colorful』(15th Album)2014年)では、冨田恵一 らしく、ストリングスが派手で凝ってたり、細かな音がたくさん使われていた。

 

辛島: はい、はい。冨田(恵一)さんは、もうギミックがすごいんですよ〜……、もう「冨田(恵一)マジック」が〜。で、ご本人は「なにもしてないですけど」っておっしゃるんですけど、「いや〜、すっごいしてるでしょ!」みたいな……(笑)。なので、『colorful』のときは、その「冨田(恵一)色」の中に私を入れさせてもらって組んだっていう感じがあるんですけど、今回の 十川(ともじ)さんは、クラスメイトみたいで、こう、なんか、遊ばせてくれる感じはありましたね。

 

ーー 辛島美登里 と同じく、『ポプコン』(「POPCON」「ポピュラーソングコンテスト」)出身(当時「伊丹哲也&Side By Side」のキーボーディスト)の 十川ともじ とは、1996年に発売された 8枚目のオリジナル・アルバム『恋愛事情 〜reasons of love〜』以来だ。

 

辛島: はい、そうです。もともとの接点は、私が、ヤマハの『ポプコン』(「POPCON」「ポピュラーソングコンテスト」)で賞をもらったときに、もう、彼はその前から、スタッフでいた人で、で、ちょうど時期的に私が上京して曲書きの仕事を始めた頃に、彼は「チャゲアス」(CHAGE and ASKA)のバンドのキーボーディストとしてやっていて、アレンジもちょっとずつ始めていってっていう……。

 

辛島: なので、ちょうど同じぐらいのときに東京に出てきて、アレンジの仕事をどんどんどんどん重ねていって、私は、曲を書いてデビューしたっていうのがあって、で、「もう 1回 会いたいな」って思ってて、『IN YOUR EYES』(1995年、7枚目のアルバム)のときにお声をかけて、アレンジしてもらったんですけど、そのときも、3曲ぐらいかな……、3〜4曲、アレンジしてもらう感じだったので、「アルバム全曲、お願いする」っていうのは本当になくて、今回、初めてでした。

 

ーー ひとりのアレンジャーが、アルバム 1枚を丸ごと担当したことで、統一感があっていい。

 

辛島: あっ、そうですね。で、彼も、「やっぱり、全部を見ていられるから、バランスが取りやすい」って言ってました。

 

2 槇原敬之が提供した『Favorite Phrase』 〜「今回、意を決してお願いしました…」〜

 

 

ーー アルバムのリリースに先駆けて、2024年2月7日から先行配信された、アルバム 1曲目に収録されている『Favorite Phrase(フェイバリット・フレーズ)』(作詞・作曲:槇原敬之 with 辛島美登里)は、シンガーソングライターの 槇原敬之 が提供したメジャー調のミディアムバラード。サビの「♪あなたの望みを 叶えてあげたい」が耳に残る、可愛らしい曲だ。しかし、辛島美登里 が、オリジナル・アルバムで、他の作家やアーティストが書いた曲を歌うことは珍しい。今回、初めて、以前より、好きだった 槇原敬之 に、楽曲提供をお願いした。

 

辛島: あっ、そうですね〜、好きでした。どの作品(が好き)っていうわけではないですけど、なんとも言えない「繊細な優しさ」というか……。あと、身近なところの小物を使って「恋人と別れたことがわかったりする」とか、すごくそういう詞の感じとかワードが好きだったので、「いつか書いていただけたらいいな〜」って、ずっと思っていて、で、今回、意を決してお願いしました。

 

ーー しかし、槇原敬之 に書き下ろしをお願いしてみると、なんと、すでに出来上がっている曲があった。

 

辛島: そうなんですよ。「槇原(敬之)さんに、曲をお願いしたいんですけど……」ってお話をしたら、「実は、辛島(美登里)さんに歌って欲しい曲があるんですよ」っておっしゃられて、もう、本当に「すぐ送ってください!」って言って……(笑)。で、(音源)データを送ってもらって聴いたら、本当に素敵な曲で、まず、もう、始まりから私には書けない曲だったので、「すごく素敵だし、私、歌入れしたら、槇原(敬之)さん、コーラス入れてもらえますか?」って言ったら、「喜んで」って言ってくださったんです。

 

ーー 辛島美登里 に歌ってほしいと思っていた、温めていた曲があったということだ。そして、この『Favorite Phrase』の作詞・作曲者名のクレジットは、辛島美登里 と連名になっている。

 

辛島: はい、そうなんです。で、曲をぱっと聞いたときに、「もうひとフレーズあった方が私は好きだな」って思って、その気持ちも、もう正直に伝えて、「あの……、Dメロを加えてもいいですか?」っていうのも、そのときにすぐ槇原(敬之)さんに言ったら、「ああ、いいですよ〜」っていうことだったので、「私、ちょっとメロディーと歌詞を付け加えるので、それをもう 1回 聴いてみてください」って言って、彼の方に返したら、「いいですね」って言っていただけたので、「では、これでレコーディングしますね!」とまとまりました。

 

ーー 辛島美登里 が、一部、メロディと歌詞を付け加えた。

 

辛島: はい、そうです、足しました。あの……、大サビの「♪誰も 何も 無くなった夜も あなただけは 拍手をくれる」っていうところです。ずっとサビが繰り返される箇所に、ひとつブレイクを入れて、よりサビを際立たせたいと、私的にはそう思ったので、「入れてもいいですか~?」って聞いて、「いいですよ」って、わりと、その場で OK をいただきました。

 

ーー 槇原敬之 の曲で、とくに好きな曲を聞いてみた。

 

辛島: たとえば……、『もう恋なんてしない』(1992年)とか……。あれは、本当に、もう、逆説、逆説で、「もう恋なんて しないなんて  言わないよ 絶対」って、聴かないとそこがわからないっていうか……。なんか、そういう繊細な思いやりかな〜……、複雑で、ちょっとイジイジとした女性の気持ちとか、男性の引きずる気持ちっていうのが、本当に上手で。で、槇原(敬之)さんの声自体が、すごく爽やかなので、それが変な湿気を帯びないっていうか、とっても優しく入ってくるんですよね、たぶん、男性も女性もたまらないんだろうなって思います。

 

ーー 今回の『Favorite Phrase』でも、たとえば、「♪洗濯や料理するときも 私のセーターや靴下を 編んでくれているときも」の部分など、身近なところの小物を使うことで、聴く人はシーンが浮かんでくる。それらが、サビの「あなたの望みを叶えてあげたい」をより伝わるようにするための布石になっている。

 

辛島: そうですよね〜。もう、そこも、なんか、「"靴下" を歌詞にひっぱり出すんだ〜この人〜!」みたいな……(笑)、もう、ホントに……(笑)。

 

3 永井真理子への提供曲『Keep On“Keeping On”』をデュエット 〜「新鮮な驚きでした…」〜

 

 

ーー 辛島美登里 が、1989年に 永井真理子 に楽曲提供し、アルバム曲だったにも関わらず、永井真理子 の代表曲のひとつにもなっているバラード曲『Keep On“Keeping On”』(作詞:永野椎菜 / 作曲:辛島美登里)(アルバム『Miracle Girl』収録、1989年)を、今回のアルバムでは、永井真理子 との デュエット・バージョンで収録している。辛島美登里 も、1993年に発売された 5枚目のオリジナル・アルバム『BEAUTIFUL』でセルフ・カバーしているが、永井真理子 と一緒に歌うのは、今回が初めてだ。永井真理子 とは、以前の所属事務所が同じだったこともあり、長い付き合いでもある。

 

辛島: そうですね。なんか、常々、マリちゃん(永井真理子)から、「『Keep On“Keeping On”』は、私も好きなんだけど、ファンも大好きなんです」っていうのを聞いていたりとか……。で、彼女もベスト盤とかで、リメイク版とかも出していたりとかしていて、で、マリちゃん(永井真理子)のファンの人からも、「『Keep On“Keeping On”』いいですよね!」ってやっぱ言われるんですよね、私も。だから、なんか、本当にありがたいですし、大事にしてもらえてる曲を、まずここで歌おうっていうふうに話しました。

 

ーー その『Keep On“Keeping On”』(Duet Version)では、1コーラス目は、辛島がメロ、永井がハモを、2コーラス目は、永井がメロ、辛島がハモを、そして、リフレインでは、ふたりがユニゾンで歌っている。ふたりとも、歌い慣れている曲だけに、歌い分けは、レコーディング当日のスタジオで決めたのだろうか?

 

辛島: いや、あの……、わりと私もそうですけど、マリちゃん(永井真理子)も、しっかり準備する子なんですよ。なので、最初に、レコーディング前にメールで、「こうこう、こうですけど」って伝えて、「わかりました。練習してきます」みたいな……、はい。

 

ーー 辛島美登里 は「バラード・シンガー」というイメージだが、永井真理子 と言えば、この『Keep On“Keeping On”』や『ZUTTO』などのバラードもあるが、『ミラクル・ガール』『ハートをWASH!』『Fight!』『Ready Steady Go!』などを歌う「ロック・シンガー」だ。ふたり、それぞれに個性的で、全く違った声質だが、声の混じりがいい。

 

辛島: そうなんですよ〜。ナガマリちゃん(永井真理子)の音楽性としては、ロックに近い歌を歌っていて、で、私はバラード中心のポップスを歌っていたので、声の性質が違うのかなと思っていたんですけど……。あの、ソロのパートを歌っているときには、もちろん、それぞれの個性が見えるんですけど、ハモったときに、どっちがハモったかわかんないくらいミックスされていて、私も「えっ、私がハモってたっけ?」くらいで、で、マリちゃん(永井真理子)もそう言ってて、それくらいで、それは、もうビックリしました。もしかすると、時を経て、35年 経って、彼女の声質も少し変わってきて、私の声質も少し変わってきて、「混じり合いやすくなったのかね〜」って、ふたりで言ってました。新鮮な驚きでした。

 

辛島: ただ、おもしろいのは、この『Keep On“Keeping On”』に関しては、私が自分で歌うときには、少し軽めのミディアム・バラードで歌ってるんですね。で、逆に、マリちゃん(永井真理子)の方が、しっとり「ド・バラード」で歌ってて……(笑)。で、彼女の最近のアルバムでは、本当にアコースティックな、ピアノと、あと、オーケストレーションが入った感じで『Keep On“Keeping On”』を歌ってるので、彼女の方が、「えっ、こんなテンポ感で歌うのめちゃくちゃ新鮮だ!」って言っていたぐらいで、面白かったです。私の方は、わりと少しポップ寄りの方のアレンジというのが、とても自然だったんですけど、彼女の方が「もう、新しい世界!」って言ってました。

 

4 永井真理子とのデュエット用に書き下ろした『シロツメクサ』 〜「それぐらいの距離が心地いい人も…」〜

 

 

ーー アルバム 6曲目に収録されている『シロツメクサ』(作詞・作曲:辛島美登里)も、「辛島美登里&永井真理子」名義でのデュエット曲。メジャー調のミディアムバラードで、耳に残る綺麗なメロディが印象的な曲だ。今回、永井真理子 と『Keep On“Keeping On”』をデュエットすることになり、デュエット用として新たに書き下ろした曲だ。

 

辛島: はい、せっかく(『Keep On“Keeping On”』を)一緒に歌うんだったら、新曲を書きたいっていうのがありました。

 

辛島: で、この曲は……、ちょうど、そのきっかけが……、2年前にイベントがあって、そのときに、彼女(永井真理子)と私と、偶然、楽屋が一緒だったんですね。そのとき、本当に久しぶりに会って話して、なんとなく気持ちが繋がりあったっていうか、それがきっかけで、デュエットをお願いしたこともあったので、そのときの私の気持ちであるとか、(以前)同じ事務所(「MS アーティスト プロダクツ」現「MSエンタテインメント」)にいて、で、彼女が、一旦、音楽をお休みして、オーストラリアに渡ったんですけど、そのときに、私の立場とすると、わりと急な話で、「えっ! 行っちゃうの? お休みするの?」っていうのを、急に聞かされた感じがして、「えっ? なに なに なに! さびしいじゃないか!」みたいな気持ちがあったんですね。

 

辛島: で、「それを、1回はぶつけたいな」みたいな気持ちがあって……(笑)。私がそれくらい思うんだから、マリちゃん(永井真理子)のファンは、すごい思っただろうなと思って。「それを形にしたい」っていうのがちょっとあって、それと同時に、「そんなことがあったけど、今こうやって会えて、あのときに思いもしなかった一緒にレコーディングをしている私達っていうこの時間って、本当に素敵だな」って思ったので、それをそのままテーマにして書いたんです。

 

ーー 『シロツメクサ』の歌詞は、辛島美登里 と 永井真理子 のふたりの関係性を歌っている。たとえば、「♪夢を競うグランドで ふいにスピード落とし トラックを外れて 羽ばたいたのは何故?」という歌詞は、辛島美登里 が話している「永井真理子 が、音楽をお休みして、オーストラリアに渡ったこと」を表している。

 

辛島: そうですね、「なんで行っちゃったの?」みたいな……(笑)。

 

ーー 「♪心なんて無理に 開かなくっていいんだよ  近すぎない隙間に 心地いい風が吹く」という歌詞は、まさに、ふたりの心地よい距離感を持った関係性が表れている。

 

辛島: ああ〜、はい、そうですね。なんか、無理に「仲良し」っていうことを意識する必要もなくって、そうやっていたら、「こうやって、近づける、繋がる空気ができたね」っていうのと同時に、やっぱり、みなさん、聴いてくれるファンもそうだし、同じぐらいの年代で、「なんか、もうちょっと仲良しの証(あかし)を持ってた方がいいんじゃないか?」とか不安になる人もいるかもしれないんですけど、それは、もう「人それぞれ」で、それぐらいの距離が心地いい人も……、私もそうだし、きっとマリちゃん(永井真理子)も……、それで、「ここまできたよね」っていうのを言いたいなと思いました。

 

ーー 今年、2024年の 3月から 4月にかけて、愛知、兵庫、東京で行われるコンサート・ツアー『辛島美登里 35th Concert Tour 2024 〜Coral 35〜』では、スペシャルゲストとして 永井真理子 も出演する。ふたりとも、1989年から放送された人気のテレビアニメ『YAWARA!』のテーマ曲を歌っていたことがある。永井真理子 の『ミラクル・ガール』(作詞:亜伊林 / 作曲:藤井宏一)が オープニング・テーマ曲として、辛島美登里 の『笑顔を探して』(作詞・作曲:辛島美登里)が エンディング・テーマ曲として放送された。今回のツアーでは、その 2曲も披露されるという。

 

辛島: はい、私たちにできることと言えば、それをすぐ思いついて……(笑)、これは、このふたりにしかできないかな〜と……(笑)。なので、「ふたり YAWARA! をやろうね」って言ってます。もちろん、『Keep On“Keeping On”』(Duet Version)も『シロツメクサ』も歌います。なかなかこれって、ないですからね。それぞれのファンもそうですし、そうじゃなかった人たちにも、ぜひ見て欲しいなって思ってます。

 

5 ピアノ弾き語りで、スタジオライブ録音した『最後の手紙』 〜「そこのね、見極めが難しいですよね…」〜

 

 

ーー アルバムのボーナストラックとして、11曲目に『最後の手紙』(Studio Live Version)が収録されている。『最後の手紙』は、1989年に発売された アーティスト ソロ メジャー デビュー シングル『時間旅行』のカップリング曲で、切ないメジャー調のバラード曲。今回、その 35年前のカップリング曲が、ピアノ弾き語りで、スタジオライブ録音で収録されている。なぜ、この曲で、このスタイルでの録音だったのだろう?

 

辛島: 実は、あんまり、そんなに深く考えてなかったんですけど……(笑)。たまたま、去年、「ビルボードライブ」(Billboard Live)でバースデー・ライブを行って、そのときに、バースデーに繋いで、デビューシングルの A面『時間旅行』と、カップリング曲の『最後の手紙』と歌ったんですけども、それがすごく好評だったのと、ディレクターさんが聴いてらして、で、「今回、アルバムを作るんだったらば、なにかその原点に戻るっていうのもあるし、歌ったらどうだろう」っていうのを提案いただいたんです。

 

辛島: で、この原曲のアレンジも、私、すごく好きなので、これはもうこのままにして、だとしたら、弾き語りでシンプルに届けたいなと思って。

 

ーー 1989年に発売されたオリジナルのアレンジは、久米大作 が手がけている。そのアレンジのイメージを壊さないように、ピアノの弾き語りにしたということだ。

 

辛島: そうですね。なにか、変にアレンジするとか、何かを加えるとかっていうよりも、原点の……、「弾き語りのスタジオライブ」っていう、一番、シンプルな……、これ、曲を作ったときも、たしかピアノで作っているので、もう、そのままで。で、たぶん、ライブで歌う時も、弾き語りで歌いたいと思うだろうから、「じゃあ、そのままライブ録音みたいな形で録りましょう」って話になりました。

 

ーー ピアノ弾き語りのスタジオライブ録音だと、やり直しがきかない。

 

辛島: そ〜なんですよ〜。だから、むっちゃ緊張しましたよ、もう……(笑)。「止まったら、また、最初からやり直し」って思ってたので……(笑)。

 

ーー 通常、出来上がっているオケに、ボーカルをレコーディングする場合、歌だけなので、何度もやり直しができるし、部分ごとに録ったり、部分ごとにやり直したりもできる。さらに、何度か録音しておいて、良い部分だけをつないで 1本にすることもできるが、こういう、弾き語りで一発録音する場合には、そういうことはできない。しかし、それだけに、いい空気感があるし、声が微妙にカスレたりしているところもあるが、それも逆にライブ感があっていい。 

 

辛島: そうなんです、あやういんですよ〜。歌いながら、どんどん引き込まれていって、泣きそうになっちゃってたんで……。なんか、そういう行ったり来たりがすごいあやうい歌なので、まあ、ボーカリストとしては、もうなおしたいところだらけなんですけど、まあ、ライブっていうことで、これはこれで収めようっていう感じです。

 

辛島: とにかく、この曲が、一番、不安でした、歌い直しもできなかったので……。他の曲は、「これ、もう1回歌ってもいいですか?」って言えるんですけど、これは、その「もう1回!」ができなかったので。

 

ーー しかし、録音は、そんなに時間をかけていない。

 

辛島: 4回ぐらいですね。何回も歌うと、やっぱり、気持ちとか、集中力が萎えてきたりとかしちゃうので。

 

ーー 何度も何度もやると、どんどん綺麗な整った歌にはなっていくが、最初にあったダイナミックな良さがなくなったりもする。

 

辛島: うん、うん、そうですね。そこのね、見極めが難しいですよね。その鮮度みたいなものがね、ライブだったらあるだろうから、「何回もは歌わない方がいいな」とは思っていましたし……。でも、もう、緊張感がバリバリでした……(笑)。

 

ーー それら 4つのテイクからのセレクトも、自ら選んだ。

 

辛島: はい、もちろんです。一緒に聴いてた(レコーディング)エンジニアの方も「これがいいですね」って言っていたので、で、「このテイクを使おう」っていうふうに話しました。

 

ーー そういう空気感も含め、派手ではないが、聴けば聴くほど沁みる曲になっている。

 

6 言葉のチョイスが秀逸な『卒業記念日』 〜「「卒業記念日」って言葉から、あと全部を作りました…」〜

 

 

ーー 辛島美登里 が作る曲は、歌詞も、メロディも、それぞれが本当によく出来ていると思う。まるで、超一流の職業作家が書いたような歌詞とメロディだ。それもそのはず、もともとは、シンガーソングライターではなく職業作家を目指していたし、実際、1989年のアーティスト ソロ メジャー デビュー前は、多くの歌手に楽曲提供もしている。

 

ーー 辛島美登里 は、洗練されていて、無理のないメロディックで綺麗な、耳に残るメロディを書く。曲の中での転調も自然でうまいし、メジャーキーとかマイナーキーとか言い切れない曲が多いのも特徴だ。以前のインタビューでは、曲を書く時、メロディと言葉が一度に出てくるということもあるし、メロディが先行する場合もあると言っていた(最下部に、前回のインタビュー記事のリンクを付けておきます)。

 

辛島: あっ、でも、そうですね、はい。メロディ先行で作る時は、ピアノを弾きながら、コードをおさえながらですね。なので、メロディが浮かんだときには、もうコードがあるんですね。「このコードで、このメロディ」っていうのが浮かんでくるので、それを、ピアノでリアル化して……。「歌詞が乗っている場合もあるけど、乗っていない場合もあって」っていう感じですかね。

 

ーー テンションノート(コードにはない音)をうまく使って印象的なメロディを書く。たとえば、アルバム 2曲目の『人魚の恋 ~風になって~』だと、Bメロの「♪あ〜いを〜 なくして〜」の「あ」と「を」が 9th(ナインス)の音で、サビの「♪か〜ぜに なって〜」の「か」が 11th(イレブンス)の音になっていて、それぞれがテンションノートだ。綺麗で、耳に残って、心地よい。

 

辛島: あっ、ありがとうございます。

 

ーー また、以前のインタビューでは、「歌うことも苦手だし、詞を書くことも苦手」とも話していた。  

 

辛島: ホントなんです〜、苦手です〜、変わってないんで、私……(笑)。

 

ーー しかし、歌詞も本当に見事だ。洗練された知的な言葉のチョイスには、非凡なセンスを感じる。キャッチーな言葉で、「そうだよな〜」「そうだよね〜」と感じるような「真理」を表現したり、書かれていない裏側の心情や心の動きを描くのがとてもうまい。天才的だと思ってしまうくらいだ。

 

ーー たとえば、『サイレント・イヴ』では、「♪"ともだち" っていうルールは とても難しいゲームね」、「♪本当は 誰もが やさしくなりたい  それでも 天使に人はなれないから」、「♪移りゆく季節が ページをめくるわ」など、うなってしまうような見事な表現が多いが、なにより、サビの「♪さよならを 決めたことは けっして あなたのためじゃない」という、そのフレーズが全てだと思う。

 

ーー なぜなら、それは、「そう思いたい自分がいる」ということで、本当にそう思っていたら、そんなことは言わない。もちろん、聴いている人は、そういうふうに頭の中で言語化はされないだろうが、そういう「言葉の裏側にある気持ち」を無意識に感じているから、切なさが伝わって、感動させられるのだろう(『サイレント・イヴ』に関しては、前回のインタビューで詳しく話してくれているので、興味のある方は、そちらをお読みください。最下部にリンクを付けておきます)。

 

ーー 今回のアルバムでも、たとえば、2曲目の『人魚の恋 ~風になって~』では、

 

「♪傷つけるより 傷つくほうで よかったと思ったら 景色が変わった」

「♪悲しみを知った分だけ 私だって何か 私だってできる  誰かの痛みが今 聞こえる」

 

ーー 4曲目の『3months ~止まった地球(ほし)~』では、

「♪同じことを繰り返す日々って 奇跡なんだね 素敵なんだね」

「♪ありきたりの今日というすべてが 奇跡だったとやっと知ったの」

「♪慣れないことも覚えて 未来にアクセスする」

 

ーー 5曲目の『逢いたくて』では、

「♪ちょうど今、私 あなたと同い齢 二人分の 季節を紡ぐ」

「♪願いの短冊 折り目のない手紙 縦書きのことば 間違えないように ひとつひとつ 空へ綴った」

 

ーー というように、難しい言葉は使わず、ごく普通の言葉を使って、見事な表現をしている。

 

辛島: ああ〜……、ありがとうございます。ああ……、でも、『逢いたくて』は、短冊に書く時は縦書きだなぁ〜と思って……(笑)、そんな感じです……(笑)。

 

ーー と話すように、辛島美登里 本人は、そんなに深く考えて歌詞を書いているような感じではない。そこが天才的である所以だ。どういうところから、歌詞が浮かぶのだろう?

 

辛島: う〜ん……、まっ、最初、空気みたいな感じというか……、「こういう色」みたいな、「こういう場所」みたいなものを設定しながら書いてて、で、少しずつ言葉を足していくので……。なので、その歌詞が、たとえば、恋愛でハッピーエンドに行くのか、失恋で終わるのか、(書いている途中は)ちょっとわからなくて……。出来上がったら、「そっか、壊れちゃったな」みたいな……(笑)、「別れちゃったんだ、ふたりは」みたいな……(笑)。

 

ーー 全体のテーマや構成を考えて、結論ありきでストーリーを作るのではないということに驚かされる。

 

辛島: そうですね。でも、そういう場合もあって、『卒業記念日』(作詞:辛島美登里 / 作曲:中崎英也)なんかは、そうなんですけども……。あの、「離婚したけど、頑張ろう」っていうテーマで書きたいと思ってたんですけど……、で、それと、「息抜き」っていうので、「ビールとかを飲む女性にしたい」とか、なんか、そうやって書いていくのもあるんです。

 

ーー メジャー調ミディアムテンポの『卒業記念日』は、「離婚」を「卒業記念日」と言い換えている発想というか、アイディアがすごい。なかなか、そんなことは思い付かない。まるで、昭和の超一流の職業作家みたいだ。

 

辛島: あっ、そうですか〜……。でも、いま、本当に、駅とか駅近で、ちょっと飲んだりとかできる場所って、すごい増えましたよね。で、改札口のすぐそばにお店があって、そこで、「ちょっと 1杯だけ飲んで帰ろうかな」とか、そういうシチュエーションが気になって。そこで、黒ビールでもなんでもいいんですけど、それを飲む女の人の絵を描きたいっていうのがすごくあったんです。だって、いま、本当にそういう方が多いので。

 

ーー いまどきは、「離婚」することを「卒業記念日」と、普通に言うのだろうか?

 

辛島: いや、言わないです……(笑)。ああ……、これは、私の作曲ではなく、中崎英也 さんが書いてくださって、曲をパーンって送ってくださったんですね。なんか、「私にはない 16(ビート)っぽいメロディを書いてほしい」というふうに初めてオファーして、このメロディが出てきたので、「さあ、これ、(歌詞を)どういうふうにしようかな〜」と思ったときに、まず、サビの「♪卒業記念日が〜」ってすぐ浮かんだので、ここから始めていこうっていう感じで、そこから作りました。なので、「卒業記念日」って言葉から、あと全部を作りました……(笑)。

 

ーー メロディを聴いて、いきなり、「卒業記念日」という言葉が浮かんで、そこから、他の部分を考えて、1曲を作り上げたということだ。

 

辛島: そうです。「じゃあ、卒業記念日ってなんだろう?」って考えたときに、離婚するくらいの年齢の人に当ててっていう、そういう感じで……。

 

ーー 「♪心のスペースには限りがあるよね これからは 悩み事 棚卸しして 好きなものだけ並べるの」という部分がとくにいい。

 

辛島: あっ、ありがとうございます。なんか……、そうですね〜、「そういう心境で行こう」みたいな。

 

ーー この『卒業記念日』(作詞:辛島美登里 / 作曲:中崎英也)は、『あなたのキスを数えましょう~You were mine~』(小柳ゆき)、『違う、そうじゃない』(鈴木雅之)、『WOMAN』(アン・ルイス)、『I Don't Know!』(BaBe)、『オレンジの河』(今井美樹)などの作曲や編曲を手がけた 中崎英也 が書き下ろしで作曲した。槇原敬之 の場合と同じく、もともと、お願いしたかった作家だったのだろうか?

 

辛島: これは偶然、中崎英也 さんのいろんな楽曲を集めたコンサートがあったんですね(2023年『中崎英也ヒット作品の世界 〜日本のポップスから演歌まで〜』)。それを、たまたま見に行って、本当に『浪漫飛行』(米米CLUB)(編曲:中崎英也、米米CLUB)とか、『違う、そうじゃない』(鈴木雅之)(作曲・編曲:中崎英也)とか、「あ〜、すごいな〜」と思って。で、今井美樹 さんの曲とかもあったんですけど、それ聴いてて、「あっ、これ、私にはないリズム感だ」と思って。

 

ーー 中崎英也 は、16ビートっぽい、リズミックなメロディの曲が得意だ。

 

辛島: そうなんですよ〜。ちょっとシティポップな感じのものが多いので……。で、ちょうど、そのコンサートの時に、澤田知可子 ちゃんも一緒にいて、で、チカちゃん(澤田知可子)も「いい曲、いっぱいだよね〜。私、書いて欲しい!」って言ってて、「えっ、私も書いて欲しい! ふたりで楽屋に行って頼もう!」って言って、で、お願いしたんです。もう、ドキドキして、私、そういう頼んだことが 1回もないので、「どうしよう……」と思ったんですけど、「ちょっと、言ってみよう」って……。

 

辛島: で、初対面だったんですけど、私は「16(ビート)っぽい曲を書いて欲しい」って言って、チカちゃん(澤田知可子)は、「バラードを書いて欲しいんです」っていう話をして、そしたら、「いや、うれしいな〜」「ボク、書きたいよ」って言ってくださったんです。

 

辛島: で、別の日に、1回、チカちゃん(澤田知可子)と 3人で会って、ご飯を食べながら話をして、そしたら、すぐ曲が来たんです。で、中崎(英也)さん的には「バラードが書きたいんだよね〜」って言ってたんですけど、「いや、もう 16(ビート)っぽい曲でお願いします」って言って……(笑)、もう決め打ちで。

 

ーー 『卒業記念日』は、ミディアム・バラードとも言える。

 

辛島: あっ、そうですね。それで、どうしても、切なさを入れたかったみたいなので、盛り上がりそうで盛り上がらないようなメロディにはなってるので……。ってことは、軽いテイストだけど、結構、その主人公にも、なんか「裏歴史」がちゃんとあってっていうのが、ぱっと見えてきたので、そういう歌詞になりました。

 

7 真骨頂のバラード『忘れないで』  〜「なにかメッセージを出したいって気持ちが…」〜

 

 

ーー アルバム 7曲目に収録されている『エスポワール』(作詞・作曲:辛島美登里)(エスポワールとは、希望、期待の意)は、メジャー調アップテンポで、たとえて言えば、スタイル・カウンシル(The Style Council)のような、おしゃれなポップス。冒頭の「♪何を考えているのかわからないあなたと  誰を信じたらいいのかわからない私の」という歌詞を考えると、詞先で作られた曲のように感じる。

 

辛島: あっ、でも、これも、メロディからですね。これは、わりと、メロディと歌詞が一緒にできた感じかなと思います。

 

辛島: あの……、クリスマス・コンサートを毎年やっていて、『冬の絵本』(『辛島美登里 Christmas Concert 冬の絵本』)っていうタイトルでやってるんですけど、去年(2023年12月16日)が、「不思議の国のアリス」をフィーチャリングしたものだったんです。で、それをなんかちょっと意識した曲を書いておきたいなっていうのがあって、で、ちょうど『冬の絵本』のミーティングを重ねてるときに、この曲ができました。

 

辛島: なので、主人公は……、なんか、自分を重ねるとちょっと若いんですけど、アリスっていうイメージっていうか、「私の中では、アリスはこんな感じ」って思って書いた曲ですね。もう本当に最後に近いときにできた曲かな〜。

 

ーー 「♪行かないで 行かないで 私の国から逃げないで」と、韻を踏んだ「あなたのエスポワール わたしのエスポワール 世界は空回る」が、聴くと耳から離れない。

 

辛島: ありがとうございます。そうですね〜。わりと、クールなことを考えてるんですよね……、「好きなのか、嫌いなのか、どっち?」みたいな……(笑)。

 

ーー アルバム 9曲目に収録されている『日常』は、冒頭で、「♪冷たい朝は 仕事を休みたい」と歌われているのがおもしろい。

 

辛島: ああ〜……。この『日常』が、一番、最後にできた曲で、これは、他の曲とバランスを見ながら「シンプルな曲にしよう」って思って作りました。

 

ーー そして、アルバムの本編最後、10曲目に収録されている『忘れないで』は、『サイレント・イヴ』や『あなたは知らない』『愛すること』『あなたの愛になりたい』などのような、辛島美登里 らしい王道のピアノ・バラードで、期待を裏切らない、いい曲だ。まさに、この曲こそ、辛島美登里 のパブリックイメージだろう。

 

辛島: ああ〜……、ありがとうございます。王道っぽいから……、そうかもしれないですよね。

 

ーー サビの高い音を、エモーショナルな感じで強く歌っているのが、ちょっと意外で新鮮だった。たとえば、「♪ただ一人の」の「の」を強く押して歌っているし、「♪笑えなくて」の「く」のアクセントも強い。

 

辛島: はい、はい。そうですね〜……。これも、クリスマス・コンサートの時に作った歌なんですけど、ちょうど、一昨年の年末だったので、コロナ禍も「終焉迎えるのか、迎え切れないのか」みたいな、結構、そういう瀬戸際なときだったと思うんですよね。で、心の中では「もう、たくさん!」みたいな気持ちがあったかもしれないし……(笑)。そんな、いろんなことがある中、集まって、コンサートに来てくださってる人の気持ちがすごくありがたくて、それで、なにかメッセージを出したいって気持ちが、すごく高まってた時期だったかな〜っていうのはあります。

 

ーー そんなメッセージを含んだ王道バラードで、アルバム本編は締めくくられている。

 

ーー そして、2024年 4月24日には、冨田恵一 がプロデュースして好評だった、前作となる 25周年記念のオリジナル・アルバム『colorful』(2014年)が、【2024 LP EDITION】として、アナログ盤で発売される。全11曲収録のオリジナル CD から 8曲がセレクトされ、アナログ盤用に曲順も変更されている。

 

ーー このアルバムには、『サイレント・イヴ』と『あなたは知らない』のセルフ・カバー(colorful version)や、中川晃教 とのデュエット曲『つよく、つよく…』、そして、斉藤由貴 への提供曲で、震災後各地で歌われてきた『手をつなごう』のリテイク・バージョンも収録されている。いずれも、冨田恵一 らしい、おしゃれで、洗練されたサウンドで、新しい 辛島美登里 を感じさせるものだ。たしかに、アナログ・レコードで聴きたくなる。

 

辛島: なんか、それはわかりますよね〜。そんな感じありますよね。

 

ーー 全11曲から 8曲をセレクトしたのは、LP レコードの A/B 面に入りきらなかったからだろうか?

 

辛島: はい、入らなかったんです。溝が掘れなかったんです……(笑)。なので、微妙に曲順も変えてあります。

 

ーー 『名前のない空』『あなたと』『一歩一歩ずつ ~Go to hometown~』の 3曲が入らなかったが、それでも、ひとつの作品としてまとまっている感じがする。選曲は、誰がしたのだろうか?

 

辛島: あっ、私が選びました。(A/B 面で)4曲・4曲しか入らないとなると、こうかな〜って。曲順もそうですね。裏返すと『毒』っていう曲から始まるのがいいかな〜と思って……(笑)、ちょっと、こう、小意地が悪い感じで、いい感じがしました……(笑)。

 

ーー レコードだと、A/B面をひっくり返して針を落とすから、A/B面 それぞれの 1曲目と最後が意味を持ってくる。

 

辛島: そうなんですよね〜。

 

8 歌手になりたいと思ったことは、一度もなかった 〜「一番、心地よい形だと思ってます…」〜

 

 

ーー 1989年に、アーティスト ソロ メジャーデビューしてからのことは知られているし、出身地の鹿児島時代、子供のころから高校生のころまでのことは、前回のインタビューで聞いた(最下部にリンクを付けておきます)。そこで、鹿児島を出てから、1989年の アーティスト ソロ メジャーデビューまでの間のことが知りたかった。

 

ーー 前回のインタビューでは、「歌手になりたいと思ったことは、一度もなかった」「ポプコンのときに、人前で初めて歌った」「子供のころから、曲を書く人になりたかった」と話していた。

 

辛島: 実は……、そうですね〜。どっちかと言うと、本当に「曲を提供して、歌ってもらう」みたいな……(笑)。そういうのが、自分にとっては、一番、心地よい形だと思ってます。

 

ーー 地元、鹿児島の高校を卒業すると、国立奈良女子大学に進学した。なぜ、奈良だったのだろう?

 

辛島: あっ、それは、もう本当に単純な理由で、兄が東京の大学に行っていて、私に「お前みたいに世間知らずな女の子は、東京に行くと男の人に騙されるから、穏やかそうな奈良にしとけ」って言われたんで……(笑)、そんな感じですよ……(笑)。

 

ーー 国立奈良女子大学では、音楽部に所属した。

 

辛島: あっ、はい、実際は合唱部ですけど……。本当は、大学で、それまで全然できなかったバンドとか組んだりとかして、自分の曲を誰かに歌ってもらって、キーボードでも弾いていたいなって思ったんですけど、そういう「軽音楽部」がない学校だったんですよ……(笑)。

 

辛島: で、ひとつ、「メジャー・コピーズ」っていうのがあって、「ここは軽音やってるな……」と思って、「入りたいんですけど」って言ったら、「ごめんね、ウチは、メジャーな曲をコピーするバンドなの」って言われて……(笑)。「だから、オリジナルは歌わない」って言われて、「あ〜、ダメだ〜」って思ってたら、ちょうど、先輩が、合唱部の勧誘をやってて、「見に来ない?」って言われて、断りきれなくて行ったら、「今日から入部する辛島さんです」って言われて……(笑)、そのままなし崩し的に入ったっていう感じなんです。

 

ーー 1983年、大学 3年生の時に、自作の『雨の日』(作詞・作曲:辛島美登里)で、小坂明子、中島みゆき、長渕剛、八神純子、松崎しげる、渡辺真知子、世良公則&ツイスト、安全地帯、チャゲ&飛鳥(CHAGE and ASKA)、杉山清貴 …らを輩出したヤマハの『ポプコン(POPCON)』(第26回 ヤマハ・ポピュラーソングコンテスト)に応募し、10月2日に「つま恋」で行われた本選会で、見事、グランプリを獲得した。『雨の日』は、「♪愛はいつでも あなたのメロディ」と歌われるマイナー調のバラード。

 

辛島: なんか……、私の中では、そうやってバンド活動もできないし、合唱部員になって、なんとなく「楽しいけど、やりたいことが、やれてないな」っていうのは、ずっと溜まってはいたので、とにかく「曲を書きたい」っていうのがあったんです。

 

辛島: で、そのころ、『コッキーポップ』(『ヤマハポピュラーソングコンテスト』と連動していた番組)っていう番組が、私にとっての唯一のアマチュアの人が応募できるコンテスト番組っていうふうに思ってたんですね。で、ず〜っと「出したい、出したい」と思っていたのが、鹿児島のときは叶わなくって……。

 

辛島: で、「たぶん、私は、大学を出て、鹿児島に帰って、このまま就職して、普通に結婚するんだろうな」ってのがもう見えてたので、「だったら、1回ぐらい、なにかチャレンジして、学校生活を終わりたい」と思って、3年生のときに曲を出したんです。曲は、もう、たぶん、これで最後だと思うから、奈良にいた証(あかし)っていうか、そういう曲を書いておきたいな〜っていうのはあったと思います。

 

ーー 『雨の日』には、「♪もういい〜かい まあ〜だだよ」が入っている。

 

辛島: あっ、そうです、そうです。ちょっと、童謡みたいなものもモチーフに入っているので。

 

ーー その当時は、田舎に帰るのではなくて、作曲をやっていきたいと思っていた。

 

辛島: うん……、なにか形にできたらいいなっていうのを、ずっと、心の奥底で思っていたと思います。

 

ーー 当時、『ポプコン』でグランプリを取ると、その曲が、レコードとして発売された。辛島美登里 の『雨の日』も、第26回『ポプコン』の翌年、大学在学中の 1984年 3月21日に、ビクターから発売された。そのシングルの B面には『心の街』という、おしゃれなマイナー調のバラード曲が収録されている。

 

辛島: それを知ってるんですね……、恐ろしい……(笑)。

 

ーー 『心の街』は、マイナー調のバラードで、下降クリシェ(ベース音が半音ずつ下がるコード進行)の感じが、その後の『サイレント・イヴ』彷彿とさせるような曲だ。

 

辛島: ああ〜、 ああ〜……。あれは、なんか、曲がなかったので、「B面の曲は?」って言われて、「あっ、いけない、曲がない」って、あわてて書いて、レコーディングした曲ですね。

 

ーー その後、1989年6月に、アーティスト ソロ メジャー デビューするまで、5年間くらいある。1985年3月に大学を卒業すると、作曲家を目指して上京した。

 

辛島: はい。大学卒業後は上京して、「ヤマハ音楽院」ってところに寮があったので、その寮に入れてもらったんです。もちろん、寮費は払ってたんですけど、在籍すると、音楽院の「ピアノ室」を自由に使えるってことだったので……、そこに、2年いたのかな……。

 

ーー 「ヤマハ音楽院」(旧名「ネム音楽院」)には、のちに第一線で活躍した編曲家の 萩田光雄、船山基紀、大村雅朗 らや、作曲家の 林哲司、歌手の 大橋純子、ギタリストの 松原正樹、松下誠 といった人たちが、過去にいたことでも知られる。

 

辛島: いや〜、そうなんですよね。本当に錚々たる方々が在籍されておられたすごい所なんですよね。私はピアノ練習室を自由に使わせてもらうことだけの「名ばかり生徒」でしたので……、授業はたぶん 1コも受けてなくて……、すいません……(笑)。

 

ーー 作曲の勉強はしていない?

 

辛島: してないです、してないです……(笑)。

 

ーー 転調の仕方や、テンションの使い方がうまいのは、「ヤマハ音楽院」で学んだからだと思っていた。

 

辛島: いや いや いや いや……、全然……、そういう(音楽)理論は、自分の中には、なんにもないです。

 

ーー そのころ、アルバイトをしながら、曲を書いてプレゼンをするという日々が続いたが、大学を卒業して 2年目の 1987年、永井真理子 の 2枚目のシングル曲として『瞳・元気』(作詞:只野菜摘 / 作曲:辛島美登里)が採用されたことから、作曲家として注目され始めた。

 

ーー さらに、1987年に、アニメ『魔境外伝レディウス』のテーマ曲として『Midnight Shout』(作詞・作曲・辛島美登里)、1988年には、アニメ『聖戦士ダンバイン』エンディングテーマ曲として『Last No』(作詞・作曲・辛島美登里)がそれぞれ採用され、この 2曲は、辛島美登里 自身の歌でレコーディングされ、いずれも、シングル曲としてキングレコードから発売された。

 

辛島: はい、これも、「曲を提供する」っていう中のひとつですね。で、たとえば、「こういう曲(のコンペ)があるんだけど」って言われて……、で、曲を書く時って、必ず、デモテープを作らなきゃいけなくて、「仮歌を入れておいてください」って言われて、で、「そのまま(本番テイクも)歌う」っていうのがいくつか続いたって感じですね。だから、デビューとかの意識とは、全く違うんですよね、ホントに。

 

ーー 辛島美登里 は、永井真理子をはじめ、浅野ゆう子、斉藤由貴、酒井法子、観月ありさ、森口博子、林原めぐみ …ら、多くのシンガーに作家として楽曲を提供した。そして、その後、レコード会社「ファンハウス」の名プロデューサー 金子文枝 に見出され、1989年6月25日に、シングル『時間旅行』(作詞・作曲:辛島美登里)で、アーティスト ソロ メジャーデビューした。

 

9 今の時代、いろんな聴かれ方があっていい 〜「面白いなと実は思っています…」〜

 

 

ーー シンガーソングライターとしてデビューし、『サイレント・イヴ』などのヒット曲を出した後も、自身の活動と並行して、楽曲提供も続けている。夏川りみ への提供曲で、「第46回 日本レコード大賞」で最優秀歌唱賞を受賞したシングル『愛よ愛よ』のカップリング曲『微笑みにして』(作詞・作曲:辛島美登里)、斉藤由貴 への提供曲で、震災後各地で歌いつがれている『手をつなごう』(作詞・作曲:辛島美登里)(2011年)、また、最近では、同郷の 城 南海(きずき みなみ)のアルバム曲『恋雨 〜Len Rain〜』(作詞・作曲:辛島美登里)や『タピオカ』(作詞:辛島美登里 / 作曲:松本俊明)なども書いている。

 

辛島:  あっ、城(きずき)さん、はい。『タピオカ』は、本当は、書くはずではなかったんですけど、急に「1曲、詞ががまだ入ってない曲があって、辛島さん、書きませんか?」って言われて、たしか、「3日ぐらいしかないんですけど」って言われて……、当時のタピオカブームに乗って、勢いで書いた詞でした……(笑)。

 

ーー シンガーソングライターとして自身で歌う曲を作る時と、楽曲を頼まれて書く時とで、何か違いはあるのだろうか?

 

辛島: う〜ん……、でも、楽曲を頼まれた時は、たとえば、城(南海)さんだったら、城(南海)さんの声とか、歌っていらっしゃる世界とか……、なんかね、「こういう場面を歌ってほしいな〜」っていう……、(夏川)りみ ちゃんもそうですけど、そういうイメージっていうか、考えますよね。

 

辛島: なんか、永井真理子 さんだと、「マリちゃん(永井真理子)いつも元気な歌を歌ってるけれども、じゃあ、ちょっと、逆の曲を提供したいな〜」とか、「新たな魅力が見たい」とか思って書きますし。

 

辛島: で、自分の曲だと……、でも、どっちかと言うと、辛島 が「辛島美登里 っていう歌手にどんなふうに歌ってほしいかな〜」みたいなことを、ちょっと距離を置いて作るときはありますね。

 

ーー 今後、やってみたいことを聞いた。

 

辛島: あ〜、う〜ん……、あの、今回、槇原(敬之)さんから曲をいただいて、そのアーティストの方との会話とか、マリちゃん(永井真理子)(とのコラボ)もそうなんですけど、そういうことが自分の今まで作ってきたアルバムの中で、今回のオリジナル・アルバムでできたっていうのは、私にとっては、「とても大きなドアだったかな」って思って……。で、あまり自作とかにこだわらずに……、ま、自作はそれも面白いんですけど、アーティストの方とのセッションというか、そういう機会を持てたらいいなって思います。

 

辛島: あの……、一昨年、やっぱり何かの企画で、KAN さんがゲスト出演されたライブを見に行く機会があったんですよ。たぶん、(KAN さんとは)デビューの時期も近かったんですね。なので、当然、お互いの存在を知ってるんですけど、そんなにそのときも密ではなく、初めて楽屋に行って KAN さんとお話をして、KAN さんの楽曲も素晴らしいし、「いいな〜、いつかなにかやりたいな〜」って、すごいそのときに思ったら、いなくなっちゃったから……。なんか、そういうことが続くと、「やれる環境があるときには、あんまりモジモジしないで、やっておきたいな」みたいなこととかっていうのは、ちょっと思いますね。

 

ーー 今回、槇原敬之 に楽曲を依頼したような、そういうコラボレーションを積極的にやりたいということだ。 

 

辛島: そうですね〜。なので、私も、もうちょっと早くいろんなことがやれたらよかったのにな〜って……。(KAN さんと)ピアノ・セッションしたかったな〜とか、ホント思ってます。

 

辛島: KAN さんも、「あのとき、辛島さんとボク、同じ場所でライブ出演してましたよね」って覚えてくださってるんですよ。「なんで、あのとき、楽屋で挨拶くらいしておかなかったんだろう」とか……。で、そのあとに、「一緒にやりたいな」とか思ってたくせに……、「声かければよかった……」とか、ホントにいろんなことを、あとで思いました。

 

ーー 1989年に、アーティスト ソロ メジャーデビューして 35周年。その 35年の間に、音楽を取り巻く環境も、音楽そのものも大きく変わった。今、感じていることを聞いてみた。

 

辛島: いや、もう、ホントに……、私、平成元年(1989年)にデビューしたんですけど、もう、その「るつぼ」に巻き込まれていたな〜っていう……。

 

辛島: で、最初……、私、レコード盤は出してなかったんですね、CD から始まった人だったんですけど、やっぱり CD でも、レコード盤でも、本当に、「曲は、一番最初から最後まで、その順番で聴くもの」とか、曲間を、「この人、どんな気持ちでこの間を作ったんだろう?」とか、そういうことを妄想しながら聴くのが大好きだったりとかするんです。

 

辛島: たとえば、(CD の)ブックレットを見ながら、「こういう詞で、こういう感じなのか〜」みたいなのがあったんですけど、今って、本当に、ダウンロードしたりとか、あともう「TikTok」(ティックトック)でサビだけ聴くとか、なんなら、2倍速で聴くとか、なんかそういうのも現象としてありますよね。

 

辛島: そういうのを見てると、なんか、「曲の聴き方が、どんどん変わってきたな」って思って。でも、それを批判する気はサラサラなくって、その違うものが出てきた分、今、自分がやってる音楽の幅がすごい広がってきて、面白いなと実は思っています。

 

辛島: で、じゃあ、私がどこに行きたいかって言うと、「どっちでもない」っていうか、自分の好きな感じでというか……。もしかして、その「TikTok」(ティックトック)でも対応できる曲があったら、どんどん流してほしいし、「でも、これは、イントロからじっくり聴きたい」っていうふうに聴く人が思ってくださるんだったら、 CD 買って、ブックレットを見ながら、ジンワリ聴いてもらったりとか、後ろのスタッフの名前とか見ながら聴いてもらってもいいし……っていう、本当に、多様化の、多様性の時代なんだな〜って思います。

 

ーー 「聴き手に委ねる」「いろんな聴かれ方があっていい」ということだ。

 

辛島: あっ、もう、全然そうですね。で、ホント、「素敵だな」って思うのは、 YouTube とかのお陰で、昔の曲とかガンガン聴けるじゃないですか。で、そうすると、リアルタイムじゃない、生まれてなかった人たちが、「これ、いいよね」って言って、大昔の曲とか、あと、もう王道の、たとえば(中島)みゆき さんの『ファイト!』をカバーをした私のライブ映像を見て、「あれ、むっちゃ感動した」とかって言ってくれるのを聞くと、すごい私も嬉しくなります。

 

辛島: やっぱり、響くものっていうのは、ちゃんと届くし、いろんな恋愛して……、「LINE で別れた」って人もいっぱいいる中、「やっぱり、この曲を聴くと切なくなる」って聞くと、やっぱり……、「うまくいかない恋」って普通にみんなあるんだなって……(笑)、みんな、経験してるんだな〜って……(笑)。そう思うと、「大丈夫だな〜」って思います。

 

ーー 時代が変わっても、人の本質は変わらないものだ。だから、『サイレント・イヴ』も歌い継がれているし、最近、知って、好きになっている若者も少なくない。

 

辛島: あっ、そうですね。むっちゃ嬉しいですね、ホントに。なんか、あの……、元気をもらえますね。伝わるものは伝わるんだな〜って思いますね。

 

辛島: 現に、やっぱり、三世代で、コンサートに来てくださる方もいらしゃいますし、「ボクが一番若いファンだと思います」って言ってくれる中学生の男の子とかに会うと、ホントに、SNS が全てを網羅していると思うけれども、その SNS を使いこなしてる人たちの中でも、刺さっていく、届くものとかもあるから、あんまりそれに迎合しようとか、拒否しようとか思わずに、普通に、思うものを作っていきたいなっていうのはありますね。

 

(取材日:2024年 3月6日 / 取材・文:西山 寧)

 



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辛島美登里 インタビュー(2012年)

 

 
 


 
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