冬の蜂

あれは中禅寺の山影の
赤や黄色も褪せる頃
水藻絡むオールふと止めて
ボート岸に寄せたあなた

細い糸を張ったまなざしを
たてに切るような葉の雨
こんな小さな葉も死ぬ前は
炎えて美しくなるのね
指先にとまる冬の蜂
弱弱しく薄い羽が小刻みに震えた
翡翠の色した雨雲背に置いて
くちびる翳らせ あなたはポツリ言う
飛び交う蜂すら刺せなくなるのなら
心が刺せない愛も仕方ないよね

宿の湖畔沿いの部屋の椅子
そっと急須傾けた
頬に硝子窓の雨の色
滑る影が泣き真似した

烟草五本分の時が過ぎ
急に私の髪撫でて
君にふれることが出来るのも
今日が最後だねと言った
指先を飛んだ冬の蜂
残る力振り絞って雨空にかすれた
湖畔に降りつむ霧さえ消えうすれ
雲間に射す陽の眩しさ見上げてた
刺せない蜂さえ あんなに飛べるなら
私も独りできっと生きてゆけるわ
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