日食なつこ
銀化
2025年5月14日に“日食なつこ”が5枚目となるフルアルバム『銀化』をリリースしました。昨年開催の“未発表曲ツアー「エリア未来」”で演奏された、当時まだ曲名のなかったバンドフルアレンジの楽曲が10曲。唯一バンドサウンドを離れ、Refeeld氏へトラックメイクをオファーした「i」。そして「(an unknown crew)」とタイトル付けられた回想的トラック、全12曲で構成されております。 今日のうたでは、そんな“日食なつこ”による今作『銀化』にまつわる歌詞エッセイをお届けいたします。
およそ100時間後に34歳の誕生日を迎えようという時分にこれを書いています。
いつのまにか人生の半分近くをこの珍妙な名で生きていることになるらしく、こんなに長く使うことが分かっていればもっとアーティスト然とした名を考えたのに、と苦々しく振りかえる出発地点もずいぶん遠くに霞むようになりました。
よくぞここまで飽きずに曲を書き続けているものだと思います。
30歳くらいまで感性が枯れず気力が続けばまあ万々歳、という程度に当初見ていたピアノ弾き語りという壁打ち的趣味は、その範疇を規模も期限も大きく超えていまだ延長どころか本戦のさなかに有ることを許されているようです。
そのうえ曲を書く速度と精度は何故か年々上がっているようで、近年はリリース頻度に対して新曲が書けすぎて余る、という贅沢な飽和状態に悩まされてすらいます。
そこに降り落ちてきた、2024年、活動15周年。
大切な節目としてこれまでの歩みを総括するようなポーズが強く望まれるであろうその1年を想像したときに、「いや、振り返るとかいいから新曲出させてくれ」というあられもない本音が胸中には湧いていました。
やるべきこととやりたいこと、どっちつかずで中途半端な周年にしてしまうことだけは避けなければならない。モチベーションを保つカウンターとして講じたのは、「未発表曲しかやらないツアー」というものでした。
活動15年間に存在する楽曲は1つも披露されず、代わりに完全なる未発表曲をいきなり10曲、生で食らわせるという内容。その性質を汲み「エリア未来」と称されたツアーで、お客さんは周年の先を垣間見ることができ、そして私自身は先に進みたいフラストレーションを周年に紐付けながら昇華していける、という目論見でした。
キャパをあえてコンパクトに絞ったそのツアーは結果として各地チケットがほぼ即完。楽曲に全幅の信頼を置いてくれているお客さんに、我々も遠慮なく用意した珠玉の未発表曲たちをぶつけることができました。
次にいつ聴くことができるかも分からない音に夢中で食いつき、振り落とされまいと神経を尖らせステージを睨むお客さんの射抜くような眼つきを、あの夏の景色として脳の深い場所で覚えています。
あれから1年。陽炎のようにあの夏を走り去った未発表曲たちは、やがて『銀化』という作品群を成し、2025年という未来に辿り着きました。
ガラス製品を長いこと地中に埋めているとその内部が層状に風化し、そこに光を当てるとプリズムのように乱反射して虹色の輝きを放つ、そんな現象を“銀化”と呼ぶそうです。
このアルバムの完成までに辿ったどこまでも独善的な道のり、それを面白がってくれたお客さんたちの息吹、こんな無茶苦茶な旅の計画を(たぶん呆れながらも)強力に支えてくれた日食CREWとチームの思い出も個人的には大事に挟み込んで、本作の複層的なきらめきを、自信を持って世に放り投げてみたいと思います。
<日食なつこ>
◆フルアルバム『銀化』 2025年5月14日発売 <収録曲>
01 閃光弾とハレーション
02 風、花、ノイズ、街
03 vacancy
04 julep-ment flight
05 夜刀神
06 leeway
07 ラスティランド
08 i
09 0821_a (remaster ver.)
10 五月雨十六夜七ツ星
11 (an unknown crew)
12 どっか遠くまで